執筆者ただいま病気療養中日記。 (・・・・・ってココ闘病ジャンルなんだからあたりまえじゃないか。と、今更。)
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この指のさきにある機械は、はんぶん壊れたままです。
それでも、あたしの命令に従って、 ぎこちなく動いてくれるようになりました。
治ったわけじゃなく 日和見みたいな頼りなさで すぐにぶっこわれちゃう あたしの体みたいな頼りなさで
少しずつ、
カタカタ、
だまされながら、
カタカタ、
あたしはといえば はんぶん壊れたキミを酷使しながらことばを吐き出しています。 いま、限られたことしかキミはできない。 たとえれば手すりにすがって一歩ずつぎこちなく歩くくらい。
その力の最大限ぎりぎりまで絞り上げてあたしは書いています。
意地悪かな。
そうなんだろうな。
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あたしがかかえているのは一般、慢性と呼ばれる病気で その病気とあたしは手をつなぎたくないけど ちっとも手をつなぎたくなんかないけど 病気はあたしの何処が気に入ったのか離れてくれず しかたなし、あたしはずっとコイツと一緒に生きてきました。 生きてます。
醜い病です。
病気が暴れ出しそうなとき あたしは身体の奥のほうに耳をすませます。
奥の、奥のほう、 からだの底のほう、
そっちのほうからこわれていく音がします。
ガラガラ、
とか
ぱきん、
とか
そういう音ではなくて
耳に聞こえない、気配だけの音がします。
あたしがこわれていく音、 これからあたしを食い尽くしに行くよ、と宣言している ばかなあたしの体の一部の立てる無音の音。
あたしは耳をすませます。
ただ、すませます。
うずくまって、ちいさくまるまって これから起きる嵐がいちばん小さくてすむように、ただ祈って 赤くはれあがっていく皮膚をみて 動物園の象みたいに荒れてゆく皮膚をみて、腕をみて、足をみて、 ぴしぴしと裂けていくからだをぎゅうぎゅうと抱きしめて 痛みやかなしみが積もっても涙をこぼさなくてすむように、 自分ではないみたいな姿を目にしても、ああああと叫ばなくてすむように こころのどこかを殺して耳をすませつづけます。
あたしを壊していくその気配が次に何をはじめ、どこを攻撃しようとするのかを ただ、じっと。
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こころをなぐさめる涙は このからだから流れ出るくせに あたしを傷つけるしおみずであるから あたしは涙を流さないように ただうずくまって耳をすませてた。 見つめてた。
24年。 あたしはあたしのこころを選ばなかった。
あたしはからだの中を見つめ嵐が過ぎるのを待ちながら どうやら、あたしのこころを壊しました。
そんなふうにキミのなかのどこか奥の方も今、こわれていっているのかもしれないね。
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はんぶん壊れたからだを酷使しながら
カタカタ、
カタカタ、
あたしがキミとつながっているキーボードの音は いつもとおんなじで だけど、その音はしずかにしずかに キミの見えない場所を壊しているのかも知れない。
雨の夜にとじこめられたこの部屋のなかで あたしの指は、気配を感じている。
自分のなかの、こわれていく音。
それから、キミがこわれていく音。
そんなものは錯覚だよとあなたは笑うかも知れない。
だけど、
カタカタ、
カタカタ、
何かがこわれていく音。
あたしが、こわしている音。
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戻ってきたのは誰のためでもない。
ただ
その先のあなたとつながっていたいという欲求と 置き去りにされたくはないというどうしようもなく 泣きたくなるみたいな焦りを、 外の世界に投げ上げて、ゼロにならないまでも 「もとにかえしたい」。
そのためにあたしは今、この場所にいて キミをこわしています。
あたしを、こわしています。
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「自分をいちばんたいせつにするやりかたって、一体どれなんだろう。」
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お元気ですか。
5月11日未明、あるいは早朝。
まなほ
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