『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2002年05月15日(水) 悼み。

サト君。

昨日で、あなたがいなくなってから、
ちょうど一ヶ月が、経ってた。
そのことを自分に言い出せなくて
あたしはぼんやりとパソコンの前に座ってた。


そうしてまた、一人の人が亡くなったことを、昨日の夜、あたしは知った。


このあたしと同じ膨大な量の日記の群れのなかのどこかで
言葉をつづっていた、はなさん。
あたし、あなたと直接に出会ったわけじゃありませんでした。
言葉を交わしたことも、ありませんでした。
あたしがよく遊びにゆく掲示板にあなたがいて、お話してる姿を「見て」
そうしてあたしは、その言葉に、笑ったり、他人事なのに心配したり、
あなたのページであなたの姿を垣間見たりして、
それは、ただ、毎日の習慣のひとつとしてそうすることもあれば
そうすることで何度かのささやかに危険な夜をやりすごしたこともあった。

つまり、よくあるネット上での一方的な面識に過ぎませんでした。


だけど、

久しぶりに訪ねたそこで、

はなさん。


「もういない。」


そう、誰かが言ってた。


凍り付いて、
そうして追いかけた。
本当のことを知りたくて追いかけた。
探して、探して、

だけどたどり着いたのは、あなたがいなくなったという現実でした。


(こんなことになるのなら、あのとき、あなたに話し掛けていたらよかったろうか)


そのことを思ったとき涙が出た。
はじめて、涙が出た。

サト君、棺のなかのあなたの顔をみたときあたしは泣いたけど
嗚咽して泣いたけど、
それ以外のときは、いつでもいつでも、
あのうすらとぼけた春の空を見つめて
ただ、思いつくかぎりのおとむらいをしていた。いつもいつも。

泣かないで歌って。
泣かないで書き綴って。
泣かないで踊って。

泣かないで。
泣かないで。

涙をくるんだ風船がどんどん大きくなっていく。

今にもはじけそうで
でもはじけなくて
どんどん
どんどん
大きくふくらんでいく。

過去形というものがこの世から消えてなくなったらいいと思った。
そのかたちを使って喋ってしまうたびに、あたしは自分から
あなたがすでにいなくなったことを肝に命じなおさなければならないから
言葉だって憎んでいた。その言葉を使う自分だって憎んでいた。
窒息するくらい押し殺して、きっとひとかけらも認めたくなかった、

そうして、また、
あたしのみのまわりから、ひとりのひとがいなくなった。


「いなくなった」


はなさんへ。
サトくんを失ったあたしの涙を包んでいたまあるい風船、
いってしまうときにあなたが破っていってくれたのかも知れない。
それはなんの救いにもならないけど
あなたを本当に知っている人たちにとっては
むしろ、もの凄く失礼でたまらない話なのだろうと思うけれど
でも、はなさん。
わたし、泣くことができました。
あなたがいなくなったことを知らせる言葉を前にして固まってしまった動作が
次に動き出したとき、あたしはめちゃくちゃな怒りとセリフとをその画面に叩きながら
泣いていました。



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もしも。


忙しさとか距離とかが人を見殺しにするんだとしたらあたしはこんな世界は間違ってると思う。
やさしい人たちが戦って戦って、
そしてくたびれはててしまったその心を見殺しにするのがこの世界だって言うのなら
くたびれてしまった人たちを弱いと突き放すのがこの世界だって言うんなら
あたしはそんな世界はいらない。
現代経済の仕組みがどうした。
あのひとをかえせ。

あたしがもらった、呪い。
かさなっていく、呪い。

呪うくらいしか生きる原動力がないんなら、
当面はそれで生きててもいいのかな。
みにくいあたしはそう考える。悪い子になりたい。


手放したものの大きさをあとになって嘆くなんておおばかやろうなことはしたくない。



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どこかに行きたい。

でもどこにも行きたくない。

もう疲れた。


あたしの心の片っ方が言った。


飛び込むか
飛び出すか
飛び降りるか

みっつのうちどれかひとつだ。ほら選んで、選んで。選んで。選んで。選んで。

選んで。


くりかえされる、おしまい、へのお誘い。


だけどあの日から
そして昨日から
おしまいにしちゃえよと誰かがささやくたびに
それを追い払うみたいに反対側からサト君が現れる。
天国にはキミの椅子はないよって、ふあふあの雲の上で笑う。
まなほちゃんより先にぼくが座っちゃったからもうないよって。
だから来たってダメなんだよって。


そんな幻影を思いつくのはあたしがまだたぶん生きていたいと思ってるからなんだと思う。



だから、たぶんまだあたしはココに居る。

しぶとく生きのびて

神様を罵倒して

世界を呪って


どんなかたちでもどんな姿でもいい、
ここから、もう誰もいなくならないでください。


そう祈ってる。



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message:

 読んでいただいて、ありがとうございました。
 こんな、涙になりきれない涙みたいな駄文だけど、
 あなたにひっかかることがあったら、もしもあったら、
 どうぞ何かをください、
 あたしに、言葉をください。

 この悼みを受けとるただしい権利を持ったみなさまに。
 申し訳ありません。あたしなんかが割り込んでしまったことをお詫びします。
 そうして、迎え入れてくれたことに感謝します。

 過去形になんてしたくなかった、だけど
 はなさん、ありがとう。


 気をつけて

 ただ、気をつけていってください。


 どうぞ、お元気で、

 お大事に。



 まなほ


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