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■ ミュウー(第一章) 【�検曄�
(4)
大急ぎで、家に引き返した僕達は、ヨッチに服をかしてやり、まずは、おたがいに、びしょぬれの服を着替(きが)えた。
ヨッチは僕よりも、うんとチビスケなので、僕の服が、ぶかぶかだ。
「まるで、ペンギンみたい・・・・・・」
あまったそでを、ヒラヒラさせているヨッチを見て、僕はふきだした。
僕は急いで台所に行くと、冷蔵庫(れいぞうこ)から牛乳を取り出し、僕とヨッチの分を、チンして温(あたた)め、子猫の分は生ぬるくして小皿に入れ、こぼさないように部屋へと運んで行った。
「おなか空いてるんだろ? ホラ、飲めよ」
僕達は、ひっしで子猫にミルクを飲ませようとした。でも、子猫は鳴きわめくだけで、少しも飲もうとしない。
いくらお皿に顔を近づけても、子猫は鼻先(はなさき)をクンクンと、お皿にぶつけているだけで、まったくミルクを飲む事ができないでいる。
「こいつ、まだあまり、目が見えないんじゃない?」
僕達は、考えたあげく、習字道具のスポイトをさがし出すと、少しずつミルクを吸(す)いこんでは、子猫の口元にたらしてみた。
子猫は、おどろいたらしく、首を左右にふってあばれ出した。と・・・、子猫の鼻先に、ミルクがこぼれてしまった。
「クシュッ、クシュッ」
子猫は、たてつづけに、小さなクシャミをしている。
「アハハハ、ごめん、ごめん・・・・・・」
僕達は、そのすがたがあまりにもかわいくて、声を出して笑った。
すると子猫は、鼻先についたミルクを、ぺロぺロとなめだし、ついには、グルグルと、のどを鳴らしながら、スポイトにむしゃぶりついてきた。そして、小さなベロをうまく使って、チュクチュク音を立てながら、ミルクを飲み始めたんだ・・・・・・。
『ヤッタァー!』
僕達は、手と手を合わせて喜んだ。
よほどおなかがすいていたのだろう。子猫はものすごい勢(いきお)いで、スポイトにむしゃぶりついている。
「まずは名前を付けなきゃな・・・・・・」
ヨッチがそう、つぶやいた。
「うん、そうだ、そうだ。何にしようか・・・・・・」
「こいつ、オスかな? メスかな・・・・・・?」
僕達は、子猫をひっくり返してみた。
「アッ! ついてる、ついてる。うんと、ちっこいタマタマが・・・・・・」
ヨッチが、キャッキャと笑う。
「真っ黒な猫だから、『クロチン』はどう?」
ヨッチのていあんに、僕は、顔をしかめた。
「エッチ! それじゃあ、へんだよ・・・・・・」
「アッ! テッチッたら、なにごかいしてるんだよ・・・・・・。そんな意味じゃないのに・・・・・・。ナニナニちゃん・・・って言う事を、よく、ナニナニチンって言うじゃんか・・・・・・。それだよ、それ!」
ヨッチがあわててべんかいした。
僕は、それにはムシして、
「うんと小さいから『チビクロ』は?」
と、今度は僕が、ていあんする。
ヨッチが大げさにコケて。
「ガクッ! お前こそ、それじゃぁ、まんまじゃないか・・・。それに、でかくなってからも『チビクロ』じゃ、へんだよ・・・・・・」
と、両手を広げて、外人のように、首をふりながら、口をへの字に曲げた。
「そうかな・・・・・」
僕達は、あれこれ、しばらく考えた。
スポイトのミルクを吸(す)いつくすと、子猫はさいそくをするように、又、ミュウーミュウーと、鳴き始めた。
「もう、いっぱい飲んだじゃないか・・・・・、あんまり欲張(よくば)ると、おなかこわすぞ? ・・・・・・ねぇ、ヨッチ・・・。 こいつ、ミュウー、ミュウー、鳴いてばかりいるから、『ミュウー』って言う名前はどう? え・・・っとねえ、ちょっと待ってて? ちゃんと漢字名(かんじめい)もつけてやるんだ。『未夢生(みゅう)』こう書く・・・・・・」
僕はメモ帳に書いてみる。
「きったねぇ字・・・」
ヨッチが思いっきり、顔をしかめる。
「『未来(みらい)に夢(ゆめ)が生(う)まれる』っていう願いを込めて。どう? カッコイイだろ」
僕のていあんに、ヨッチは、
「へぇー! お前って、案外、アッタマいいじゃん。それ良いよ! かわいいし、呼びやすいし、夢がある」
と、感心しながら、うんうんうなずいている。
「決まりぃ! お前の名前は今日から『ミュウー』だ!」
僕達は、こうごにミュウーをうばいあうと、ミュウーを、もみくちゃにしながら、その名前を何度も何度も呼び合った。
「でも、きっとお母さん達、ミュウーを飼っちゃダメだって言うよ・・・・・・」
ふと僕は、現実にもどり、首をうなだれると、ヨッチに眼で、救いを求めた。
「オーゥ、ノー。僕んちはアパートだから、ぜったいにダメだよ」
ヨッチが、首をふりながら、また、外人のように口をへの字に曲げる。
どうやら、それが、ヨッチのクセらしい。
「僕んちだって、こんなにオンボロだけど、借家(しゃくや)だしなぁ・・・・・・」
ミュウーは、お腹がいっぱいになったのか、僕達の心配(しんぱい)をよそに、スヤスヤと眠(ねむ)りはじめた。
「ま、ダメ元で、一応おねがいしてみる事はみるけどさ・・・・・・」
僕は、ぜんぜん自信がなかったけれど、そう言って見た。
「うん、がんばれよ。じゃぁ、明日学校でね」
そう言うと、ヨッチは少し心配そうに、帰って行った。
◊ ◊ ◊ ◊ ◊
8時半をまわったころ、玄関の開く音がして、いよいよ、問題のお母さんが帰ってきた。
「ミュウー、たのむから、おとなしくしてるんだぞ」
僕はひとまず、押入れにミュウーをかくすと、ドギマギしながらお母さんのところに行った。
「おそくなってごめん? 今直ぐご飯のしたくをするからね」
お母さんは、上着をぬぐと、すぐさま台所に行きかける。
「ま・・・、まぁ、そうあわてずに、少し休んでてよ。つかれてるんでしょう? い・・・今、僕が、おいしいお茶を入れてあげるからさ。そ・・・そうだ! それから、後で、か、肩(かた)ももんであげるよ」
僕は、なれない手つきでお茶をそそぐと、ニンマリ笑って、お母さんにさし出した。
「何よ、気味悪いわねぇ。どういう風のふき回し? 正直におっしゃい。何か悪い事でもしたんでしょう・・・」
お母さんは、ほくそ笑みながら、うたぐりぶかそうな顔をした。
(ダメだこりゃ・・・・・・。お母さんには、まったくかなわないや・・・)
僕はかんねんした。
「ぜったいに怒(おこ)らないって、約束(やくそく)してくれたら話すから・・・・・・」
そういう僕に、
「場合によっては、約束なんか出来ないわ」
と、すずしい顔で言う。
僕は、ひといきつくと、今日の出来事を話し始めた。
話しはじめたとたんに、お母さんが、
「コラッ! 又あそこに入ったのね?」
と、舌(した)を鳴らした。
「ホラ・・・、すぐそうやって怒(おこ)る・・・」
僕はむくれて言う。
「怒るのは後にして、最後まで聞いてよ・・・」
僕は、ぜつぼうてきな気分になりながらも、続きを話して聞かせた。
話を聞き終ると、お母さんは、
「けがでもしたら、どうするの・・・・・・。やくそくをやぶって、又あそこに入った事は、とっても悪い事なのよ? それはみとめるわね?」
と、おっかない顔で僕をにらみつけた。
僕はすなおに、コクンとうなずいた。
「でも・・・、子猫を助けたという事は、善意(ぜんい)にあふれた、とても良い事だわ。あなたのそんな優(やさ)しさは、母さんほめてあげる。・・・・・・そうねぇ・・・・・・、仕方ないから、プラスマイナスゼロ・・・、と言う事で、今回だけは帳消(ちょうけ)しにしてあげるわ。それで、一体(いったい)、その子猫ちゃんは、どこへ行っちゃったの?」
「エッ? こ、子猫? そ・・・、それが・・・その・・・・・・」
僕は又、しどろもどろになると、かくごをきめて、となりの部屋の押入れから、ミュウーを抱きかかえ、オズオズと、お母さんにさし出した。
すると、どうしたことか、怒(おこ)るとばかり思っていたお母さんが、ミュウーを一目見るなり、なんと、子供みたいにはしゃいだんだ。
「キャァ〜、なんてちっちゃくてかわいいの?『黒い猫は、幸せを運ぶ』って、前にだれかに聞いた事があるわ。ネッ、飼おう? 飼おう? お母さん飼いたいーっ!」
そういうと、お母さんは目を細めながら、ミュウ―にほほずりした。
僕はそれを見て、思わずクスッと笑ってしまった。
「お母さんはクリアだね。でも・・・・・・お父さんはなんて言うかな・・・・・・」
「問題は、お父さんだわね・・・・・・あれで、けっこうガンコ者だから・・・・・・」
お母さんの声が急にくもる。
「でもきっとだいじょうぶよ、お母さんにまかせなさい。お父さん、私には、たくさんヨワミがあるはずだからから・・・ネッ!」
お母さんが、パチンと、ウインクをした。
「たのんだよ、お母さん。あー、少し安心したら急におなかが空いちゃった。お母さん、早くご飯、ご飯!」
「コラッ! 調子(ちょうし)に乗るな!」
お母さんは僕の頭を軽くこづくと、だいぶおそめの、夕飯のしたくに取りかかった。
僕はミュウーをだきあげると、心をおどらせて、ミュウーの鼻先にキスをした。
― 次回に続く ―
2002年06月03日(月)
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