ジョージ北峰の日記
DiaryINDEX|past|will
2003年07月13日(日) |
雪女”クローンA”愛と哀しみーつづき |
そうは言っても、もし私が死んで、あなたが私を解剖して学会で発表したら、あなたはそれこそ世界で初めてクローン人間を”研究・発表”した医師として有名になるでしょう。単に医学界だけでなく世界中の人々から注目されるのよ。 とうとう私の怒りは爆発した。 そんなことを考える私だろうか?今まで君は私と一緒に暮らしてきて、私をそんな卑怯な人間と思ってきたのかい。もしそうなら許せない。私は純粋に君をクローンとしてではなく”普通の人”として愛してきたつもりだ、それ以上も、それ以下のことも考えたことはない。 だったら、この旅行中、時々あなたが私の様子を窺うように見るのは何故なの? 彼女は私の心配を、想像以上によく察知していたのだ。 そう言えば、私が彼女を愛した動機、それは必ずしも純粋なものではなかったかもしれない。勿論、彼女の若さ、無垢で純粋な心、神々しいとも言える美しさ、その上正確で信頼できる仕事ぶりーー最初から人間としてだけでなく、女性としても、彼女のすべてが気に入っていた。しかし、彼女はまだ若く、本来若人としての大きな夢や希望があり、私を仕事のパートナーとしてだけではなく、結婚の対象として見ているとは思ってもみなかった。それだけに、一生懸命働き尽くしてくれる彼女の行為が不思議だった。彼女が”クローン”と言うハンディを背負って、けなげに生きてきた、と知った時初めて、私は彼女のいろいろな謎めいた行動に納得出来たのだ。 それからは”クローンだから”と彼女をいたわる気持ち、同情する気持ち、それに彼女に将来降りかかるかもしれない災難に対する恐怖心など、彼女に対する私の複雑な憐憫の情も重なって、より一層深い愛情に変形して行ったーーーのは事実だろうが、しかしそれよりむしろ医師として冷徹に彼女を観察しようとする好奇心が片隅にもなかった、と言えば嘘になるかもしれない。 今、彼女があの質問をしたと言うのは、実は彼女が私の心の内を既に充分知り尽くし、見透かしていながら、しかも出来る限り自然に”普通の人”ととして私の前では振舞おうと努力してきたのかも知れない。若い女性にとっては残酷とも言える、そんな心の中(葛藤や苦悩)を思うと、ほんの少しとは言え、不純な利己心に誘惑されそうになった自分に呆れ恥ずかしくなった。 しかしアルコールが入ったとき、時々現れる幻覚(彼女の恐ろしい顔)は、単なる幻覚で自分の弱さから現れるものだと思ってみても、しかし頻繁に見るようになると、やはりそれが恐怖心となり、彼女にとっても不審な態度となり、それが彼女の心を傷つけてきたのかもしれない。 確かに君の事を心配している。しかし今となっては、私は君が仕事の上でも、今まで以上に必要なのだ。だから無意識に君のことが心配で、それが私の態度に表れているのかも知れないね。 あなたは、私のことを本当に心配しているの?真実から私のことを愛してくれているの?と、真剣な眼差しで私の目を見据えながら言った。 勿論だとも ! 彼女の体から緊張の糸がほぐれ、感情のたかまりが徐々に和らいでいくのが窺えた。 私は兎に角”ほっと”一息つくことが出来たのである。
IX B 国のAZ河に隣接するM市のホテルは密林の中にあったが、空調が装備された近代的な建物だった。日本のホテルには見られない、なんとも不思議な外観だが、部屋は広々としていて、窓辺近くまで緑の葉が生い茂っていた。名も知らぬ鳥の鳴き声に新鮮な野生の息吹を感じた。私はAZ河にワニ、ピラニア、密林には大蛇がすんでいるなど、漠然とした先入観があった為、余計にあたりの景色が神秘的で、冒険映画の主人公になったような錯覚に陥った。 つづく
|