ジョージ北峰の日記
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2003年09月07日(日) |
雪女、クローンAの愛と哀しみーつづき |
彼女は、母に育てられた経験がないから、子供が産まれたら如何したらよいか見当もつかないとか、父はあなたのことを若いが人間として本当に尊敬できる人物だと言っていたとか、他愛もない話をしていたが、途中から思いもかけず、父は科学者だったが私が誕生してから自分のしてきたことに疑問を持つようになったらしいの、それで母と一緒に、日本にやって来てから、人間らしい本来の生き方を追求しよう考えた、とか哲学者のような話を始めた。 父が話すには、人間以外の動植物に自分のため環境を変えようとする者はない。自然に逆らわずに生きている。しかし、神は如何して人間にだけ地球上の全てを我が物ののように利用し、破壊し尽くすほど貪欲な知恵を賦与したのか不思議だと、それを好いことに一部の人間はとても傲慢で手のつけられない生物になろうとしている、と言うのだった。人間をここまで傲慢にしたのは、人間に内在する底知れない欲(悪魔)と知恵(神)が手を握ったからだろう。人間が将来地球に絶対必要な生物(地球を救う生物)として生き残るかどうかは、本当の意味で欲がなく知恵深い人間(宇宙人でも良い)が出現するかどうかにかかっている。現代の欲深い人間にとって地球は狭くなりすぎた。これから先、地球は人の意志によって破壊されることだってあるだろう。地球と地球上に存在する全生命体の命運を神は何故か人の手に委ねてしまった。それが正しかったかどうかは、今後人間がどのように考え、行動するかによって決定される、つまり最後に神の審判を受ける日が来るだろう。人は将来どのような社会(歴史)を作ろうとしているのか、例えば現在政治経済体制として資本主義なのか、それとも共産主義なのか、宗教としてキリスト教なのか、イスラム教なのか、あるいはまた仏教なのか、色々な考え、信条が衝突しあっている。しかし人間が一つの主義・思想、あるいは又、一つの宗教にこだわって争っている限り地球の将来はないといえるだろう。地球上には人間以外に色々な生命体が存在し生きているが、彼らは、そのような主義・主張があって生存しているのではない。彼らは外界を支配する法則を自然に受け入れ生きているだけだ。唯一人間だけが自然の科学法則知り、抽出しそれらを利用する能力を獲得した。しかしこれまで、人間はそれらの法則を全て利己目的の為にのみ使ってきた。その結果が人間同士の醜い、途方もない争いの繰り返しを生み、何の罪もない他の生命体を絶滅の崖っぷちへ追いやろうしてきた。そのような行為が許される筈もなく、このままの状態が続いていけば、人間は自分自身の手で自らを滅ぼしてしまうことになるだろう。父は科学者として、自分のしてきたことをとても恥ずかしく思ったらしいの、神様に懺悔をしたっかた、と言っていたわ。 しかしこの村に来て、本当に驚いたそうなの。若いあなたが病気で悩める人達のため、他人の幸福のために、何の疑いもなく身を粉にして働いている。そこには主義も、信条もない本当のヒューマニズムがあると思ったらしいの。村の人達も、そんなあなたを信頼し、あなたも人々から色々助けられる、お互いが相互に信頼し助け合うコミュ二ティーを形成している。 父はそんな村の様子を間近かに見て、この地には神が本当に望むような形での人間のコミュ二ティーが形成されている。このような社会が地球上の何処かにある限り、人間はまだまだ捨てたものじゃないと、とても勇気づけられたそうよ。 墨絵のように黒く霞む山の稜線、その合間に広がる水田、そしてそれらに囲まれた蒸し暑く息苦しい空間。しかし蛍はそんな空間を涼しそうに青い光を点滅させ上へ、下へとまるで空中戦でもしているかのように飛び交っていた。蛙はこの地を地上の楽園と考えてのことか、真夏の蒸し暑い夜を楽しむかのように相変わらず大声で鳴き、わが世を謳歌しているように思えた。少し風が出てきたのか、遠くで子供達の蛍を呼び声が聞こえてきた。 今夜の彼女の話は、私にとっては範囲が広すぎるような気がした。それにしても世界を歩いてきた父から彼女が学んできたことは私が学校で学んだことより、余程内容が豊かで内心驚いていた。ただ私の評価については、少し買いかぶりすぎではと思ったが、素直に喜ぶ事にした。 散歩から帰る間際に、最近子供の動きを感じるようになったの。そのためか時々腹痛もするの。少しは静かにして、と話しかけることがあるのよ。 妊娠してからのA子は本当に大人っぽく、優しく落ち着いて見えた。彼女の幸福そうな顔を見ていると私はそれだけで幸せだった。しかし今夜の腹痛の話は少し不安になった。この時期に胎動を感ずるはずがなく、腹痛の話は、全く妊娠とは関係のない別の次元の話ではないかと気掛かりになったのだ。 しかし私は、腹痛については産科のC先生に一度相談したほうが良いよ、とだけ言った。 つづく。
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