あぁ、 あのひとに、 僕を愛していないあのひとに、 僕にはわからぬ心を持つあのひとに、 この心を覗かれたくはないと思うことはそんなに罪深いことだろうか。
あのひとに、 僕を理解してほしいと思うことは、 そんなに理不尽なことだろうか。
ただ僕は、 愛しいだけ、 恋しいだけ、 こんなにも、 狂おしく求めるだけ、 そして決して語りはしない、 それでも。
あのひとが僕を理解できぬなら、 僕はあのひとのものでありたくない、 あのひとの傍らにありたくない、 あのひとに焦がれていたくはない、 それなのに。
あのひとがいなければ、 僕は息ができぬだろう、 この夜を遣り過ごせはしないだろう、 あのひとがいないなら、 僕はもうここへは戻らぬだろう、 決して、 決して、 二度と。
そして僕は行くだろう、 遠くへ、 遠くへ、 あきれるほど遠くに、 ただまっすぐに、 盲のように、 聾のように、 天が与えたものすべてを壊すまで、 天に恵まれたものすべてを捨て去るまで、 あきれるほど遠くに、 遠くに、 ただまっすぐに。
あのひとがいないなら、 この稀な幽かなかそけき希望も、 もう僕を生かしはしないのだから。
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