2002年08月31日(土) |
ホルマリン漬けのあした |
ちょっと今日はやることがあってあんまり書けないので、 以前某所に投稿した即興詩。 お題はとかげさんで、「ホルマリン漬けのあした」でした。
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爪先を伸ばせば 乱立したガラス瓶に触れて それらがからからと 冷たくそよいで揺れる
隣りに眠るのは 暖かい毛皮の主で 寝息に波打つ腹が たふたふしている最愛の獣である
愛すべきは すべて死に絶えたモノだと誰かが言って 嘘をつくまいと私は 賢明にして沈黙を守る たとえば私は あの黒く床を這うつやつやな虫を好かないが ここにいる我が相棒はたいそうフェイバリットにしていて 見つけるたびに最愛の人間たる私に捧げようとする そして彼の その時のきらきらした黒い瞳を 私はたいそう心待ちにしているので そう 私はきっとその虫を愛すべきものに考えているのだ
たとえば これらガラス瓶の中に浮かぶ 虫やカエルやヘビやネズミなどは 多少グロテスクなものではあるまいか? もしも 私がこの 刺激臭のする液体の中に浮かべば この相棒でさえ 嫌がって近寄らぬのではあるまいか?
そうさ 明日には解剖へと回される 私の最愛の人間の身体でさえ きっと今頃は生白い肌を晒しているのだから 私が愛すべきは この生のあした あのひとの ホルマリン漬けになったあしたのことではないかと
やがて生まれいづる 透明な朝(あした) を
待ちわびる
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