しあわせな本をぼろぼろ泣きながら読んでいた。 べつに悲しい訳ではない。 ただしあわせがいとおしいだけで。
よしもとばなな、という作家はいつも僕を落ち着かせる。 このひとの書く恋愛の形はいつも幸福そうであたたかい。なにより、健康的だ。 何と云えばいいのか、上品な和三盆の砂糖菓子を思わせる甘さ。 書いてあるものは常人の感覚を越えたものだったり、悲しみだったり、色々だけど。
泣きながら読む本、というのはそんなに多くない。べつに少ない訳でもないけど。 ベッドに寝転がって布団にもたれながら読んでいたら、目の端からつるつると水分が布団に吸い込まれていきました。何故か左目からだけ(笑) だからぼろぼろ泣いた、というのは嘘かも。 うん。 なんだか幸せを吸っていた気分。
そのあとに、また別の好きな作家さんの本を読んでいる。 あのひとの唇のように官能的な文章を。 今日は読書日になりそうな予感。
うちの家の本棚には、あまり僕の愛読書って置いていない。 表面には色々別な本があって、裏側に隠されていたり、自分の机の近くにこっそり貯めていたりで、部屋に作り付けのでかい本棚には、固そうな本しかない。辞書とか参考書とか学術書とか、田中芳樹とか村上春樹とか。 でもその、地震が起きたら下で寝ている人間は圧死しそうな本棚が、少しずつ自分の好みで染められていくのが、大学生になった当初はちょっと面白かった。
かわいた唇を寄せて、 あのひとの血が唇からこの身体にめぐるように、 目を閉じた暗闇にあのひとのぬくもりが眠るように、 詩人は詩人としての言葉を忘れてしまいたい。
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