朝、目を覚ますと、 ―――と言うよりあまりよく眠れなくて薄らな夢のあいだを彷徨していたようなものだったのだけど、 閉じられた雨戸の隙間やドアの輪郭から、淡く光が差していて あぁ朝だ、と思う。 微妙な安堵。
眠れない、ということは自分の中の緊張だとか現状に対する拒絶だとかを如実に表すようで、それらを自覚してしまうことに怯えてどきどきしてしまう。 巧く言えないけど。 自分が現実を受け容れたくないと思っているということに気付かされるというのは、精神構造の多層性を見せつけられるようで落ち着かないのだ。
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あめのおとをきいていました。 ずっと仏間の線香の匂いをききながら。 お供えの葡萄の香りがしていました。 あめに閉じこめられる家の灰色を思いました。
黒いリボンの太さが好きだと思いました。 小さい頃の演奏会用の服についていたリボンに似ていたから。 手になめらかな黒い着物もうらやましいと思いました。 深くせんすの匂いがしていました。
いつかここに 私も死ぬのだと でもきっと私はそれを嫌がるだろうと 少しだけ泣いて 微笑むのは写真だけで そんなもので いいと思いました。
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