2004年05月16日(日) |
Sentimentalistic |
雨上がり、夜、タクシーの中。 詩になりそうな言葉をもぐもぐと口の中で呟いている僕は何だかとても孤独だと思う。 ぬばたまの闇を切り裂いてタクシーはくねくねとそれでも飛ぶように走り、犬の背のようになめらかな感触の後部シートに沈み込んだ僕はゆらゆらと車の遠心力に合わせて揺れながら、世界から20枚ほど遠ざかった場所から夜を覗き込んでいる。
愛しているのは大変だ。
他人事のように。 明日は何故か遠いように思えるのに朝は手が届くほど近く見えて。 あんなに素直にさようなら、と言うんじゃなかった。
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多少めかしこんだ日が雨なのはやりきれない。 ズボンの裾が重く濡れて、電車の中の湿気が不機嫌だ。 朝食も食べず家を忍び出ると一散に雨の中を駅へ、車を。
やけに開放的な駅は雨にしっとりと湿らされてしまって、アスファルトも点字タイルも白線も、どこかうっすらと汚れて見える。 遠く田んぼのあぜ道を雨の中、傘を差しながら自転車で渡っていくひとがいる。 雨の直線が曲線に変わる瞬間を水たまりに映してじっとしている少年。
幼い日、遠い駅のホームでずっとはるか遠くへ続く葦野原を見つめていた。 その時のことを思い出してぼんやりとする。 電車はわりあい早く来た。 揺れていく各駅停車。 そんな穏やかな列車のほうが好きだ。 本当は。
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あのひとをぎゅっとするんだった。 本当は、 その髪をこの手で乱すはずだったのに。
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