あきれるほど遠くに
心なんか言葉にならなくていい。

2004年07月14日(水) 血の午後



彼は弱い匂いがした。

一方で彼は僕を打ちのめす匂いがした。



その部屋は、

 寒くもなく、暑くもなく、

絵と無機質なものに占領されて根底に煙草の匂いがした。

そこでは僕はその部屋の主のことなど忘れて何時間でも過ごせる気がした。

薄暗く、窓の外は白く曇ってカーテンがいつも4分の1に満たないくらい閉じていた。

僕には音の出し方のわからない電子ピアノと使い方のわからないパソコンとが玩具のように置かれていた。

壁にはポスター。そして彼の描いたクレヨン描きのハガキ大の絵。


そこで僕は彼女の長い髪を思い出す。

ジーンズから覗く肉づきの良い腰を思い出す。

煙草、

ほんの少しだけ良い匂いがした。

彼女の黒い、人形のような瞳。



彼は弱い匂いがした。

茶色い髪と猫のように笑う目。

挑戦に切なく負ける気弱な決意のような。


それでいていつか彼は僕を打ちのめす匂いがした。

あっけないほど、

 彼は

僕の前から唐突に消える。






↑ゆっくりと、眠たげに。

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周防 真 [MAIL] [HOMEPAGE]

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