現実はまだらに侵食されてあのひとの白昼夢。 喉が少し、いがらっぽい。 フィルタをとおした煙は何故だかすごく透明で、僕の奥深くまでうすい白に染めていく。 昔、 僕の隣で煙草を吸うのなら、1本ごとに僕にキスをするんだよ、と 少しこわれたみたいに笑う人に言った。 そのことを あのひとに言えなかったのをまだ すこし 悔やんでいる。
フィルタを通さない煙はこんなに臭くて汚い匂いなのに、 唇から吸い込む息はぴりぴりと冷たく舌を灼く。 そろそろ僕は満ちなければならない。 この心になんにもなくて空っぽだったって、 うすくケムリでも満たして、すると僕は透明ではないのだから透明人間にはなれないのを思い知るだけ。
お守りは、もらった。 僕はあのひとに、何か一つでも僕の初めてをあげたかった。 つきつめると本当はただそれだけの、 こと なの かも しれない。
うん、いい男だ僕。 あのひとの前では、たぶんいちばん。
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