家に、 帰ると耳が聞こえないように感じた。
物音が遠い。 たぶんこれは風邪だな、と思いながら 反対側では もう何も聞きたくないんだ、と呟いていた。
朝から少し怖い、と思っている。 何が怖いとかではなく。 あえて言うなら昼日中においても闇を探す僕自身が怖い。 特急列車の窓側の席で、陽だまりに埋もれながら軽くまどろんだ。 遠くヒトの声。 黒いコートに陽射しが残って暖かい。列車は梅田まで。 だけど電車が日陰のホームに滑り込んでしまうと、もう僕がどこに居るのかわからなくなってしまって、ふらふらと歩き回っている。
ロフトで手帳を買う。それからメモ帳と、小さなノート。 書きたいことを思いついたのが遅くて、ノートは半分も埋まらなかった。 てくてくと歩き回ったのがとても無駄だったという感想。
是非もなく僕は罪について考える。 因果応報ということについて考える。
ホームで電車を待っていると、遠く何かの売り子の声が聞こえる、と 思ったのを最後に聴覚の記憶が薄れる。 電車に乗り込むと急に悪寒が襲ってきて歯を食い縛る。 これはあるいは嫌悪感だろうか。 幼い頃に感じた、脱力感と無力感が一緒になったような奇妙な感覚と同じもの。 けだるい性交の後に感じる脱力と怯えのような。 目を開けていると酷くなるようだったので、今日買った手袋をはめて目を閉じる。 そのあたたかさに救われている。
家に帰って少し胃液を吐く。
僕に生きる資格はないような、そんなネガティブな気持ちが消えずにいる。
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