雨の日。 昔好きだったひとと同じ髪の匂い。 どこかとても遠くで電話が3連音で鳴っている気がする。 灰色の空。 熱くて苦いだけのコーヒーで少しだけ暖まってみる。 外へ出ると、やんでしまった雨の名残りに、オレンジ色の傘に相合傘をしている場違いな人。 落ちてこない雨粒の代わりに、風がひどく冷たい。
ことばを、 失くしたみたいに頬を寄せてみる。 しあわせ、とかじゃなくても安堵を思う。 ここで閉じていく世界は甦らなくても、このままこの観覧車の中にずっと、閉じ込められたままで あの高みまで何度も昇っては、降りてきて、 生き続けているのだって 僕は思うから。 だからたぶん あの高みでばらまいたこの心の 目に見えない欠片だって 受け取る人などなくても あのくるくる回るゴンドラのどれかの中で 見たい夢だけを見ているのだろうと 僕は思うから。
「 それからこの街を出て行きたかったの。」
明日も雨かな。
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