美しく笑う人だった。 それで僕は、あぁ悪魔はこんな顔をしているのだと、悟る。
悪魔はヒトにとって最も魅力的なものの姿を取って現れる、と言うから。 おそらく悪魔はこんな風に笑うのだろう。 美しい穢れない儚げな、顔で。
美しい髪と、素直な力強い手と、のびやかな身体。 慈母のような笑み。 あこがれはこんなひとにこそふさわしい 魅せられたように思って。 僕は自分に少しずつ、鎖を掛けはじめる。 一切ノ希望ヲ捨テヨ、と刻まれた門はもう僕の背後、既に遠い。
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家に帰ってから無心な手で香を焚いた。 告げる、という名の香。 僕はそろそろあのひとに告げなくてはならない。
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そうやっていくつの秘密を抱えていくのだろう。 秘密なんてないよ、という顔で相手を騙しながら抱いていくのにも疲れた。 かと言って秘密のあるのをわかった上で僕を望む人なんて怖くて隣で眠りこけることもできない。 なんで自分のくちびるがあいしてると言うとこんなに嘘くさいのだろう
だけど今も やっぱり今も、あのひとに会いたくて会いたくて死にそうなのです
『 一切ノ希望ヲ捨テヨ、コノ門ヲ過グル者! 』
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