店の中にまで轟くような雷鳴だった。 なんとまぁ、と言いながら緑色の薄い酒を舐めている。 甘い酒のグラスの縁についた塩がきらきら光って、うっとりと酔いが浮かんでくるのを待ち受ける。
どこまで行けば帰れるんだろうね、と
甘えた台詞はこのひとにありがちな媚びを含んでいて。 答えようもない問いに眼差しだけできつく戒めを強いておいて、何も言わずグラスを口元に揺らしている。
いつでも帰れるんじゃないの、と
言葉にするのは簡単でもそれが亀裂を深めるのはわかっていて、ひとの狡さを受け容れるように視線は時折指先に落ちる。 簡単に、嘘でも一瞬は信じられる心を持っていたはずなのに、その一瞬すらここにはもう訪れてくれなくて、勝手に醒めていく理性を止められない自分によほど呆れてみる。
ここは、
寒いのでも 暑いのでもなくて、アルコールを受け容れた身体から少しずつ体温が逃げてゆくのを脱力しながら感じている。 皮膚は、薄く身にまとった衣のように頼りない感覚で、視界から色がだんだんと褪せてゆくのが冷えてゆく身体と同じペースなのが、ひどく切ない気持になる。 笑って、くれたらいいのに。
雨はどうやら時を置かず上がり、甘い酒は2杯とも同じように薄く甘く唇に残らない。 あきらめたくないと呟いたのが何か別の話だったように思えて、現に動いた自分の唇をなぞってみる。 舌に薄く濃い抹茶の匂い。
そうして陳腐化した情熱を穏やかに塗りこめている、静かな情熱はもう忘れるところからしか起こされない。
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