夜。 どことなく春のようだ。
夜の空気がとても好きだ。 息を殺すみたいに耳を澄ますと、静けさが染みてくる。
ひとのことを考える。 何度も何度も。 まるで死んでしまった人を想うみたいに考える。 愛しいひとのことを。 ただいつまでも忘れないだろうひとのことを。
どこにいるのかしら、とか 何をしてるかな、とか 穏やかに穏やかに、ただ
会いたいというようなことを。
この心の何割かはあのひとのものだ。 そしてこの物思いの何割かをきっとあのひとは共有している。 だからまだ穏やかに、息を殺して耳を澄ましていられる。
遠くへ、どんなに行きたいと願っても
行けないことくらいわかっている。 だけどただ、一緒に行かないかと言ってみたかった。
あの日、
もうあのひとに、言葉ではなにひとつ語らないと決めた。
それが間違っていたとは思わない
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