あきれるほど遠くに
心なんか言葉にならなくていい。

2006年11月27日(月) ただそれだけ。






夢を見た。

そう気付いたのはもう起きてから1時間ばかりも経った後で、むしろそのことに驚いて足が止まってしまう。


 なにやら幸福な匂いがしていたのだ。


目を覚ますともう少し眠りたいと思った、わけもわからず幸福なまま。
昨日の僕を苦しめた微熱はすこし、治まっていて、とりあえず起きぬけの体温を測ろうと僕は細いガラスの体温計を探す。
時間も計らず適当に脇の下から引き抜くと、管の中の水銀は36℃までしか上がっていなくて何故か憮然としてしまう。
たぶん僕にはこれでも微熱なのだ、とおかしな理屈で納得して、明けきらぬ夜の空気にぼんやりとする。
何故かやわらかく満ち足りていた。
あわあわとした憂欝さと、はかない期待のような希望のような穏やかさに。


雨上がりの道を僕は歩いていた。
いつもは走る道を穏やかに、弾むように歩いた。
誰かがななめ後ろで言った。

 「そうやって、きみは目覚めた後でも笑うんだろう」


ふ、と息が止まった。
誰の声でもないのは知っていた。それはあのひとが言った言葉だ。
そうして、夢の中であのひとと笑っていたことを思い出す。






僕は泣かなかった。
夢が夢でしかないことをもうわかっていたので。
起き抜けに思い出していたらきっとつらかった。
だけど今はもう、くすんだ空の下なので、明けきった夜の後なので、僕は泣かないで済んだ。
ただ、
ななめ後ろにいたあのひとのことを思い出す。
苦しいほどの愛しさに困ることもなかった自分のことを思い出す。
ただそれを、幸せだったと思い出す。


夜になると胸が痛い。
街は霧に沈んでいて、どこか夢の中のように見えるからだ。
今僕が何を言ってもあのひとには聞こえない。
だけど僕が今、アイシテイマスとささやけば、あのひとに届くような気がする。あのひとの夢に届くような気がする。
それでも僕は何も言わない。
ただあのひとに、この心が、もう届いているのを知っているだけだ。

そしてそれがもう何にもならないことを知っているだけだ。










↑僕は優しいと皆は言う、たとえ嘘でも

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アイシテル、あいしてる、ただこの言葉にならないだけ。







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周防 真 [MAIL] [HOMEPAGE]

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