朝は靄の中に沈んでいる。 街燈も朧に霞む道路をよぎる橋を渡っていくと、目覚めきっていない朝を呼び起こすように鴉の啼き声が強く響く。 蒼褪めた屍のような朝。 人の声を聞きたくないと思う朝。 世界を拒み続けても許されてしまいそうな朝。
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夜、ひとり暖かく幸せな心持で、暖かなマフラーに鼻先を埋めながら道を歩く、その僕の前に一瞬、もう死んだひとによく似た顔が明るく街燈に照らされてすれ違っていく。
それだけで打ちのめされる自分をどうすればいいかわからない。
ひとの顔は穏やかに幸せそうに笑んでいて、しかしそれはもう死んだひとの常の顔だったから(そしてあのひとはその裏側を決して見せはしなかったから)、僕はただ打ちのめされて明るい駅のホームに下りていく。
たぶんこれは忘れてはいけないということなのだ。
そして思い出せということなのだ。
あのひとの裏側は僕の心でさえ揺さぶったのに、それほど激しい想いがあったのに、あのひとはそれを見せることなく目を閉じた。
そしてあのひとの死が僕の心を繋いでいる、ざりざりと、僕の感情も想いもすべて無視しながらどこか遠くまで引きずっていこうとしている。
僕はそれを拒もうとはしない、ただあのひとの意思がそこに無いのが斬られるようにつらい
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あぁ、どこかに行けたらいいのに。
何度もシミュレイトする真昼。
過去がどうあってもプラスにはならないように、もうどんなシミュレイションも僕を動かさないけれど。
何度もシミュレイトする。
馬鹿げた過去のモデリング、どうあっても空疎で不毛な破綻する思考。 プラス思考で言えば明日を思い出さないでいい。 建設的に言えばこれが精神の安定を生み出す一要素、かもしれない。
蒼褪めた思考の最後の一端はこうだ。
僕の過去のどこかで聞いた、青い鳥の羽ばたきの音。
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