夢を見た。
見たこともない街並み。 エレベータは上へ下へと流れる高層ビル群。 オフィス内の窓際のデスクから、渓谷のような摩天楼の合間を見る。 まるで蜃気楼のような、スモッグに霞む細長いビル群の間。
ビルの谷間に空中庭園のように緑のカフェ。 もう5年も6年も会っていない友人に会う。 開放的な服装。 カフェには大画面のディスプレイと大きなソファベッドと茂る緑。 ひしめく異性たち。 どうにもその場に馴染まない友人を、遠くから見つめるように寄り添う。 カフェは摩天楼の中断に空中庭園を構え、何物にもさえぎられない空は本物でも高層のマンションやビルに削られて機械的な匂いがする。
そうして結局、夢の中であってさえ僕はあのひとに逢えない。 その残り香は強く脳髄に作用するのに、後ろ姿すら僕には許されない。 ただその気配だけが、そこに座っていたあのひとの気配だけが、鈍く僕の神経を侵していく。
空が、
半ば目覚めながら僕は夢の続きを追っている。 いつかそこにあのひとの面影が映らないかと。 夢の中でもいいから。 せめてその姿を見るだけでいいから。
友人はもう一歩も動けない態で僕の神経を細らせるけれど、どこかで僕はそれを受け容れている。 庭園に似たカフェのバルコニーから見下ろす数知れぬ人の波。 そのどこかにあのひとがいるのではないかと思う。 どこかに。 存外に近くに。 絶望にも似てあるいは、あきれるほど遠くに。
夢は夢なだけに残酷に現実を切り取る。 模倣された現実の、もたらす痛みまで忠実に。
心がどこかへ溶ければいい。 あのひとのいないことだけ映す夢も。 どこか遠くへ行けたらいい。 夢ですら追ってこられないほど遠くへ。
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