会いたい、会いたいと啼く小鳥が居る
あのひとは微笑む努力をする。 或いは哀れみを込めて僕を見る。 或いは単に無表情に、僕の感情を探るように僕の眼の奥を見る。
時折我に返ったように此処に生きているのは何者かと思う。 外側から。己の指を握る。頬に触れる。 感触がひどく朧で、何だか悪寒に襲われる。 微笑むのは誰だ、と声がする。身の奥から。 声すらも自分の内側でない奥から聞こえるようで眩暈がする。 此処にいるのは誰か。 誰かと思っているのは誰か。 誰かと思っているのは誰かと思っているのは誰か。 求心力を失う精神。 或いは求心力を取り戻した精神。
正しく私は思う。 「そんなことは今考えるべきことではない」 明瞭な答えの無い問には休息と忘却を、もう真夜中は過ぎた。
しかし此処に、会いたい、会いたいと啼く小鳥が居る
その感触は薄氷のように華奢だ。 それだけにその羽ばたきを捉えるために胸の奥に耳を、澄ましてみる。 囀りはひどく、瞭として冴え渡る。 心、がどこにあるのかも判らなくとも、胸の空虚な辺りから骨の裏側に共振するようにその啼き声は響く。 それは内側から響く、と僕は直感している。 自明の理のように。 心がそこに在るのだと僕は信じる。
a bird cries for you and the moon ―――――――会いたい、会いたいと啼く小鳥
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