もうそろそろ時効だから書いてもいいだろう。 どうせ秘密のことだし。 僕以外の誰も憶えているはずもない。たぶん。
憶えていてほしいと思うのは僕の我侭だ。
口を開けばアイシテルと言い合う相手をおいてひとに会いに行った。 夜を越すその間、当たり前のように携帯の電源は切った。 この微妙な罪悪感にも似たものが、僕にはぞくぞくと心地いいのだと知っていた。
欲望に濡れた目でひとを見る。 隣に立つ手を引き寄せてキスをした。 どんなにか、 このひとが僕をアイシテルと言ってくれれば、他の何も必要とはしないのに、なんて身勝手な願いを胸の内に繰り返す。 内にこもった熱に熟れたような病み上がりのひとを抱いた。 ダメか、と言いながら放すつもりはなかった。
拒まないひとを抱きながら、神聖なものを汚すように身が震えた。 このひとを此処に、引きずり下ろしたことを僕はいつまでもいつまでも悔やむだろう。 この罪悪感は甘くはない。 早まる呼吸を聞きながら、あのひとの髪が香る中に顔を埋めて、泣きそうに歯を食いしばった自分を忘れはしない。 アイシテルと言い続けてこのひとが手に入るなら、とか。 これはこのひとの慈悲だろうか、とか。 願うだけで壊れそうに、僕の指が冷たく強張っていたのをあのひとは気付いたろうか。
ずるずると布団に沈んだ僕の唇に軽く口付けを降らせて、ひとは浴室へ消える。 その一瞬の口付けがどれだけ僕を救ったろう。 まるで恋の証のような。
その翌日には同じ口でアイシテルと言っていた、ただやさしく追いつめるように。 いつか全部壊れてしまえばいいと思っていた。 あのひと以外の誰もかも死んでしまえばいいって。 でなければ僕かあのひとが死んでしまえばいい。
…そうして、 いつかようやく嘘をつかないオトナになって、
いつか、
愛情なんかこのだれかのためにだけ、と 笑えるように?
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