愛していない、とだけ
ヒトを好きだ好きだと思っていれば裏切られるのが怖い、そんな 子供じみた防衛線を張ってあまり笑わないことにしている 微笑むのは難しくない。 面白そうな雰囲気に従って笑顔を作るだけで。
この心を傾けたヒトが死んで、もう何年だろう。 あの唇に口付けた日から、たぶんもう5年ではきかない。 僕はあの頃の僕の歳よりもあの頃のあのヒトの歳に近くなり、でもやっぱりあのヒトの心の何ひとつわからないままで。 そしてそういうモノがまだ好きだと云っている、ぼそぼそと小声で、小さく。 ここにいないあなたが帰るのをほんの少しだけ、とても微かに願っている。 僕はあのヒトに生きていてほしかった。 たとえ詩の一片も書かなくても、苦しくても死にたくても、希望なんか何ひとつなくても。
そうすれば僕はあのヒトに、屑みたいなものでも綺麗な何かをあげて、少しでも何かやりたいことをして、そばにいて、慰めのようにでも笑わせてあげることができたんじゃないかって それがただの自己満足でも、僕はあのヒトのために一生懸命になりたかった。 それが今もまだとても、悔しいこと。
信じる信じないではなくて、ただ僕はあなたがもういないと思う。
だからもしもまだ僕の気持ちが重たければもう全部忘れてしまっていいよ、 あなたが好きで好きでどうしようもなかったけど、 あなたに幸せでいてほしいっていうそんなことがあなたにはたぶん重荷だったんだろうから、 僕はここで、 あなたがまだどこかで生きているんだなんて絶対に認めないから。
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