朝。 雨の音で目が覚める。 出掛けるつもりもなかったけれど、少し憂欝になる。
少し熱っぽい頭を抱えながら散歩に出る。 寒さは雨に若干ゆるんで、手袋は要らない程度の気温。 てくてくと、人影も薄い道を傘を差しながら迷うように歩いていく。
住宅街の中にぽつんとあるコンビニに入り、嗄れた喉を潤すものを少し多めに買って、また雨の中をゆっくりと歩いて帰路につく。
この樹は桜、桜、
そんなふうに思いながら、春になれば花に彩られる道を辿る。
桜、ミモザ、ハナミズキ、桜、レンギョウ、雪柳、桜、桜、桜、
うつくしいものを見たい、と思うのは当たり前だ。 うつくしいものを見せたい、と思うのも。
何処へでも遠くへ行ける。 それはうつくしいものを見せたい相手がいないからだ。 いてもいないのと同じだから。 今の僕はこれら花の樹を見上げて春を想う。それはこれを見せたかった人がいたからだ。 見せられなかったことを惜しむ気持ちがあるからだ。
あぁ何処へでも遠くへ行こう、何処にいても君は遠く儚い
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