母のタイムスリップ日記
DiaryINDEXpastwill


2003年02月15日(土) ちんぷんかんぷん。


ホーム内は静かだった。
ホールに母は居なかった。居室の戸は開いていて「帰るぅ」と言う声が聴こえた。見ると、畳に座り込み壁に背をもたれて泣いていた。
「どうしたの?」と聞くと「泣いていたの。誰も見てないでしょ」
そこに、Fさんが入ってきた。母は、何事も無かったかのように「いらっしゃい。お座りなさいよ。このお座布に」と声を掛けていた。
私は、空気になってロッカーの整理をしていた。
「私がきちんとしないから整理してくれているの」と母はFさんに説明。
でも、Fさんはそんな事はどうでも良いらしく母の部屋のくまのぷーさんをしきりに触っている。
そんなFさんをおかしいとも思わずに優しく見ている母だ。
居室に私と母とFさんが居るのに交わった会話は一つもないのだ。
それでも、時間は穏やかに流れていく。とても不思議な空間だ。
暫く母とFさんは、窓を開けたりお手玉を手にしたりしていた。
その間にトイレの掃除をした。
やはり、面会の感覚が長く空いてしまうと汚れは目立つ。
「誰かが居るよ」と母はFさんに言った。
どうやら、私が居る事など忘れてしまっている。ちょっと影が見えて「誰?」と思ったらしい。顔を見せると「あーそうだった」と言う顔をした。
こんな風に、母の記憶の消え去るのは本当に早い。
それも、7畳くらいの空間内での出来事なのである。

掃除機を使い始めるとFさんはスーッと部屋から消えていった。
母に「出かけよう」と言うと「いいな」と言った。
外は、少し冷たい風が吹き出していたが「寒い」とは言わなかった。
今日は、久々にデパートに出かけてみる事にした。
母の上履きの底が擦り切れてしまったから。
入所してもう3回目の買い替えだ。家なら、2年は持つのだがそれだけ室内を良く歩き回るのかな?
デパートに入る前に腹ごしらえ。「御寿司食べる?」と聞くと「うん」という。母は、一人前をきちんと食べた。脂の多いもの、いくら等が好きなようだ。お澄ましも、お茶も全量きちんと飲んだ。
それから、靴を見た。母の靴を捜した。
母の履き方に癖があるのだろうか つま先だけがどうしても早く傷む。
つま先がはげてしまうのだ。他に壊れる事はない。
靴磨きをしても、剥げ落ちた所だけがどうしても目立ってしまう。
春先にむけて明るい色の物と思ったが母の足には合わなかった。
以前にも触れたのだが、外反母趾の母の足。それも、24.5とかなりの大足。
それに痴呆で履き方すら判らなくなってしまうこのごろだ。
おのずと、靴の形が決まってしまう。
其れなのに、母はデザインも気になる様子だ。
お店の人もかなり探してくれたがとうとう探し当てられなかった。

ふと見ると、私達の周りをウロウロしている人が居る事に気が付いた。
デパートの袋を持っているので取替えか何かで店員さんの手がすくのを待っていらしたと思った。
けれど、その方は 私達の方ににこやかに寄ってきて「これ、頂き物ですが」と手作りのカンコロ餅を差し出した。カンコロ餅とはサツマイモをこねて作った餅だ。
「どうしよう」と思ったが きっと 母と私を見て自分の親の事を考えたのでないかと察した。(違うかもしれないがそんな気がした)
素直に「有難うございます」と言って戴いた。
その方は、貰った3切れのそのもちを全部下さった。

その後、上履き売り場に行き、底の滑らないちょっとだけ厚みのある室内履きを買い施設へと戻った。

でも、カンコロ餅は施設で焼いてあげる事は出来ない。家に持ち帰り冷凍庫に入れた。母が来た時焼いてあげよう。

母と一緒に歩くと母の年齢に近い人は「娘」を思い。私に年齢に近い人は「母」を思い出す事が多いなぁ。



はな |MAILHomePage

My追加