短いのはお好き? 
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2002年05月09日(木) 真希



 ぼくは真希とふたりきりでリビングのソファに座り、まるっきり緊張していなかった訳でもないけれども、どこかリラックスしていて、話が途切れ沈黙が広がろうが、あせって言葉の接(つ)ぎ穂を捜そうなどとは思わなかった。
 逆にその沈黙が訪れるたびごとに、ふたりの親密さがましてゆくかのようにぼくには思えたのだった。
 そうやって何度目かの濃密な沈黙のつづいた後で、真希はぼくにお腹はすいてないかときいた。


「いや、今はまだ……」
 ぼくはそう言いながらも、真希の料理する姿を思い浮かべて、「ごめん。なんか急に腹すいてきたみたい」などと、あわてて言い直していた。
 すると真希は、ぱっと顔を輝かせた。
「そう。じゃ、おうどんでもつくろうか。あたしね、こう見えても料理には少しばかり自身があるんだ」
 真希はソファから立ち上がり、赤と白のストライプの入ったエプロンをつけると、シンクの前に立った。


 あらためてキッチンを見てみると、だいぶねんきの入った鍋やフライパンが壁のプレートのフックに吊り下がっていた。
 真希は底の浅い鍋のひとつを取って、水を入れ火にかけた。
「すぐ出来るから、テレビでも見ててよ」
「うん。頼むよ」


 ソファから真希の料理する後ろ姿を眺めていると、ぼくは妙にくつろいだ気分になってくるのだった。
 テレビをつけると、白黒の映画をやっていた。
 音声をゼロまで下げる。
 男が、あられもない格好でベッドに寝そべっている女に向かって、何か言っている。

「真希は映画よく観るの?」
「たまにね。映画は妹が専門だから」
「えー、そうなんだ」
「大学で映研に入ってるのよ」
「ほんと? じゃ詳しいだろうね。是非話がしてみたいな」
 ちらっと真希が振り返る。
「映画好きなんだっけ?」
「うん。おれの周りって、やっぱり音楽やってる奴ばかりでさ、たまには畑ちがいの人とまじわってみたい、なんて思うよね。真希もそういうことってない?」
 真希は「まあね」と、なんか気の抜けたような返事をした。


 映画は、FIXからあおり気味のショットにかわり、椅子に座ってベッドに足を投げ出している男の、肩なめショットとなる。
 すると、肩越しにのぞくドアが不意に開いて、禿頭の男が入ってくると目をひん剥いてとうとうと女に罵声を浴びせかける、そのカットにストロボのように……そんな男をあざ笑うかのような……いぎたなくしまりのない女の唇の大写しが、インサートされてゆく。

 深紅のルージュを引いたその唇が、しだいに開いてゆき白い歯がのぞくと更に画面いっぱいに広がって、上下に大きく揺れはじめる。女は、大口を開けて笑っているのだった。

 それでも尚、いやそれ故か、男は舌端(ぜったん)火を吐くごとく顔を朱に染めながら、すさまじい勢いでまくしたてている。

 椅子に座っている男のニヒルな眼。

 やがてゲーハーの男は諦めたのか、あきれたのかぴたりと口を閉ざし、両のこぶしを震わせながら、いすくめるように女を見つめていたが、その眼は徐々に光を失ってゆき、瞳に宿っていた怒りは困惑、そして絶望へとみるみる変わってゆく。

 床に男は膝をつき、両手で耳を覆い叫びはじめる。

 女は更に哄笑(こうしょう)を浴びせかける。

 椅子に座った男のニヒルな眼差しは、一点を見つめたまま。

 カメラが引くと同時に、その男はゆっくりと上着のなかに右手を差し入れ、するりとピストルを抜き取る。

 黒光りするピストル。

 男はピストルを、床に膝をついたままの男の禿頭にぴたりと向ける。

 それを見上げる男の驚愕の表情。

 女のバカ笑い。

 ピストルごしに見える男の見開かれた眼。

 女のバカ笑い。

 銃口の向こうに見えるニヒルな眼差し。

 女のバカ笑い。

 銃口の大写し。

 安全装置(セイフティ)のロックをはずす男の指。

 銃身の先に見える男の眉間。

 トリガーにかかる指に、ぐぐっと力がこめられる。

 次の刹那、銃口がぐるりと向きを変え、女にまっすぐ向くと火をふいた。

バーン!



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