短いのはお好き? 
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2002年10月03日(木) マネキン


 子供服のお店の前で、ベビーカーを片手で揺らしながらぼーっとしていると不意に首筋のあたりに視線を感じた。
 ぐるりと首を巡らせてみると、視線の主は二体のマネキンだった。
 
 なあーんだと思って再び向き直り、欠伸する。
 と、何かおかしいことに気付いた。
 
 オレはいったい何をしているんだろう。
 なんだろう、このベビーカーは?
 なんで揺らしてるんだ?

 そして更に奇異なのは、赤ん坊が乗っているのならまだしも、そのベビーカーは無人なのだった。
 誰も乗せていないベビーカーを揺らし続ける男。
 道往く人たちが、怪訝な表情を浮かべて通り過ぎて行くのも当然だろう。

 で、ともかく揺らすのを止めたのはいいのだけれども、次にどうしたらいいのかが皆目見当がつかない。すると、またぞろ貧乏揺すりのようにしてベビーカーを揺らしている自分に気付くといった按配なのだ。

 なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。
 一時的な記憶喪失といったものなのだろうか。
 名前は言える。年齢、住所、電話番号もとりあえず大丈夫。

 しかし、何かとてつもない喪失感がある。そのせいで、脱力感でいっぱいだ。
 なんにもやる気がおこらない。
 何か胸に大きな穴があいている、てか、からっぽってかんじかな。
 
 ……と、ポケットのケータイが震え出した。
 見るとメールの着信だった。
 

『ね、わかった? 私がいまどんな感じなのか。もう人恋しくて胸が張り裂けそうなの。あなた素敵よ、タイプなんだ。ね、私とお友達になって!』

 なんだこれは?
 わけわからん。
 タイプって、おれのこと知ってるってことなのか。
 すかさず、返信してみる。

『誰? いまどこにいるの?』

『ヤッホー! あなたの斜め後ろ。メグミですよろしく! となりは妹のマユ。てか、赤いスカートのほうが私ね。』

 振り返るのが怖かった。
 オチがもうバレバレなのだ。
 ギギギギギッと音がなるような感じでゆっくりと振り返る。

 アハハ。
 力なく笑う。
 二体のマネキン。
 ホントだ。 
 片方は、赤いスカート。
 
 
 目がキラリと光った。




   


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