短いのはお好き?
DiaryINDEX|past|will
子供服のお店の前で、ベビーカーを片手で揺らしながらぼーっとしていると不意に首筋のあたりに視線を感じた。 ぐるりと首を巡らせてみると、視線の主は二体のマネキンだった。 なあーんだと思って再び向き直り、欠伸する。 と、何かおかしいことに気付いた。 オレはいったい何をしているんだろう。 なんだろう、このベビーカーは? なんで揺らしてるんだ?
そして更に奇異なのは、赤ん坊が乗っているのならまだしも、そのベビーカーは無人なのだった。 誰も乗せていないベビーカーを揺らし続ける男。 道往く人たちが、怪訝な表情を浮かべて通り過ぎて行くのも当然だろう。
で、ともかく揺らすのを止めたのはいいのだけれども、次にどうしたらいいのかが皆目見当がつかない。すると、またぞろ貧乏揺すりのようにしてベビーカーを揺らしている自分に気付くといった按配なのだ。
なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。 一時的な記憶喪失といったものなのだろうか。 名前は言える。年齢、住所、電話番号もとりあえず大丈夫。
しかし、何かとてつもない喪失感がある。そのせいで、脱力感でいっぱいだ。 なんにもやる気がおこらない。 何か胸に大きな穴があいている、てか、からっぽってかんじかな。 ……と、ポケットのケータイが震え出した。 見るとメールの着信だった。
『ね、わかった? 私がいまどんな感じなのか。もう人恋しくて胸が張り裂けそうなの。あなた素敵よ、タイプなんだ。ね、私とお友達になって!』
なんだこれは? わけわからん。 タイプって、おれのこと知ってるってことなのか。 すかさず、返信してみる。
『誰? いまどこにいるの?』
『ヤッホー! あなたの斜め後ろ。メグミですよろしく! となりは妹のマユ。てか、赤いスカートのほうが私ね。』
振り返るのが怖かった。 オチがもうバレバレなのだ。 ギギギギギッと音がなるような感じでゆっくりと振り返る。
アハハ。 力なく笑う。 二体のマネキン。 ホントだ。 片方は、赤いスカート。 目がキラリと光った。
|