短いのはお好き? 
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2002年11月24日(日)  新月



家に戻ると、眠っている真由を玄関で美樹に手渡し、そのまま再び外に出た。

目的もないけれど、とにかくひとりになりたかった。

東松原の駅のホームで電車を待っていると、またぞろ真希の面影が浮かんでは消え浮かんでは消えして心を揺さぶった。

どうしたらこの苦しみから抜け出せるだろうか・・・そんなことを考えている内に電車を何本かやり過ごしてしていた。

やっとの思いで電車に乗り込む。

このまま、見知らぬ遠くの異国の地へとこの身を運び去ってほしかった。

ぼくらの世界にはない現実感を伴った世界。

血液がさらさらと流れてゆくのがわかるような、そんな一瞬。

大地につるんと横たわるメロンのような新月の光りを浴びて、伸びてゆくぼくの影法師。

ぼくはずんずん背高のっぽになってゆく。

影を相手にジグを踊っている間にも、そいつはどんどん伸びてゆく。

しまいには世界の果てまで伸びてゆき、ドーム状の壁にぶつかると今度は壁に沿ってこちら側へと跳ね返るように伸びてくる。

ぼくは長くなった足で川をひとまたぎ、丘を越え谷を渡り、山を登って世界を睥睨する。

大気は生暖かく、きらきらと光を乱反射する碧い海が、長い並木道の先端で炎のように揺れている。



人々は燃え盛る屋敷をとりまき、ゴミの山を引っ掻きまわし細菌を撒き散らすカラ

スの、その名も「でぶでよろよろの太陽サナトリウム」で、もう色あせて白くなっ

てしまっている日干し煉瓦のひんやりとした薄闇が、すべてのものを理性の脅迫か

ら解き放ちはじめ、薔薇の蕾に結んだ朝露の玉に映る麻のシーツ、繻子のベッドカ

バー、ピンセットで摘まんで虫眼鏡で覗かなければ分からないほどに精巧な嘘の気

狂いじみた細部の凝りようも別段驚きに値しないけれど、途方に暮れる夕立の降り

はじめにはぴったりの慟哭と小説の書き出しには願い下げの、まるで慎重に足の爪

の甘皮を剥ぐ時のような、あるいは、洋箪笥を開けたとたんにナフタリンの臭いが

鼻を突くような湿っぽいスカーフで優しく涙を拭いてやりながら、実のところゆっ

くりと、しかし確実に首を締め上げてゆくようなニレや栗の木陰から洩れ聞こえて

くる夏のさんざめきも、くすぶった山査子の匂いが少しするプディングが出来上が

った雨上がりの午後に出掛ける森の散策も、不意に脳裏に浮かんだハンス・カスト

ルプという青年の名も、すべては丸裸の黄色っぽい電球の下に飛びまわる羽虫の滑

稽さにも似てあまりにも脆弱なのだけれども、それでも泣きじゃくりながら四つん

ばいになって茨の茂みの中を探しまわればいつかは必ず出口に突き当たるのではな

いのか、などと・・・。












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