短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
切れ切れに憶えているのは さめざめと泣くきみの横顔 頬を伝う涙 東横の渋谷駅改札で待ち合わせしていた。 「ふたつ改札があるけど、どっち?」 そうマユミは訊いてきた。 ぼくは急いでメールを返す。 「ああ、そうか。ごめん、大きな方の改札だよ」 「わかった。じゃ、2時に」 時計を見る。 もう2時になろうとしている。 特急に乗れたのはよかったんだけれど、あまりにも余裕がなさすぎた。 1番線のホームに電車が滑り込んでゆく。 全てがスローモーションのようでもどかしい。 ドアが開くと同時に一気に駆けてゆく。 待っててくれよ。そう心のなかで祈るように呟く。 改札をすり抜ける。 2:05 2:05 2:05 何せはじめて逢うんだから、時間厳守だというのに遅れちゃったなぁ。 ハンカチで額から噴き出してくる冷や汗めいた嫌な汗を拭う。 眼を瞑ると頭の奥のほうに赤い発光体が見える。 マユミはどこだろう。 周りにいる女性全部がマユミに思えてくる。 でも…。 なんだか、不意に全てが馬鹿らしく思えてどうでもいいやっていう気になってる。 マユミなんて、どうだっていいじゃん。 んなことより、ぼくらの東急文化会館がこの地上から消えてなくなってしまう。 そのことを思い出した。 あの巨大な映画の看板はいったいどこにいっちまったんだ? マユミなんてどうせ偽名にきまってんし、もしかしたら男かもしんない。 それも、すげーオヤジかも。 かんべんしてくれよ。 ぼくは東急文化会館を思い出そうと必死になって眼を瞑る。 プラネタリウムで見た星座を思い出そうと必死になって眼を瞑る。 その時、背後から若い女性の声が…。 あのう、はじめまして。 アキラさんですよね? マユミです。 ぼくは、その声に戦慄し、耳を押さえて走り出した。 誰だ? アキラって誰だ? さようなら。 さようなら。 ぼくらの東急文化会館。
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