短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
その日は朝からなんかちがってた。 ストラヴィンスキーなんか聴いちゃったりしてる。 かなりおかしい。 だって、ふだんは『武満徹』とか、『Arvo Part』とか、『Steve Reich』、『Philip Glass』、『Terry Riley』、『Alvin Lucier』、『Iannis Xenakis』、『Derek Bailey』、『Hans Reichel』、『Ornette Coleman』、『Robert Fripp』、『Andres Segovia』、『Dai Kimura』、『Larry Coryell』、『Pat Metheny』とかが好きでよく聴くんだけどさ。 世界の武満がストラヴィンちゃんに認められたことが、世界の武満になる大きな布石になったというのは、有名な話だし、そういう点からいうと恩義を感じないわけでもないんだけれど、なんかね。いまひとつ好きくないのですよ、これが。 出だしは、静かに始まってふむふむいい感じでないの、なんて思ってたら不意にドでかい音で、ガッシャーンとか鳴るの多くありませんか、このヒト。 『火の鳥』でも確かありましたよね? はじめて聴いた時、持ってたコーヒーを取り落しそうになったことを思い出します。 そこいくと、やっぱブラームスでしょうか、甘美ですよね。バッハも好きだけど。 グレン・グールドのやついいですね。 というところで、現実の音に夢想は切断されてしまった。 真理雄(まりお)は、朝食のあとソファにねっころがって新聞を読むことを日課としているのだが、それはなにも政治や経済の動向をいちはやく知りたいからではなく、単に活字を見ていると落ち着くからだった。 そして、活字を見ながら真理雄はさまざまなことを夢想する。 今朝は、自分がFM局のパーソナリティーになって生放送のON AIR中という設定だった。 BGMは、カラヤン指揮で。マーラー『adagietto』(交響曲第5番 第4楽章) で、現実の音とは、ケータイの着信音だ。 フィリップ・グラスのヴァイオリン・コンチェルト第2楽章へと曲が移行した、ちょうどその時にケータイのデリカシーに欠けるピロピロが鳴り出したのだった。 そこでこちらもそれに対抗すべく即座に『String Quartet No. 4, Sz 91 - Allegro』を鳴らしはじめた。Bartokである。ざまーみさらせ! この強靭な音塊の前では、ひしゃげた安っぽい電子音など問題外以外の何ものでもないのだ。 そう、真理雄は独りごちてチャリに跨ったまではよかったのだけれど、案の定、前が見えない。というのも、今朝は目を瞑ったままでお出掛けしてみようと思っていたからだ。 仕方なくチャリンコに乗ってゆくのは諦めた。 はじめから、ダメにきまってるのだが、そこは真理雄の悲しい性。実際にやってみないと諦めきれないのだった。 でもでも、真理雄はそれしきのことでは諦めない。 BGMは、Debussy『月の光』。 朝だというのに、全身に月の光を浴びて…。 真理雄はまっすぐ、まっすぐ歩いてゆく。 目を瞑ったまま…。 「さぁ、みなさんも目を瞑って歩いてみませんか?」 ON AIR中だ。
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