短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
道草食ってないで超特急で来い! 俺はカヲルにそうメールした後で自分でも訳がわからないけれども何を思ったの か、ある女性をストーキングしはじめたのだという。むろんその様子は後でカヲ ルに聞いたのだけれど。 カヲルは時間通り待ちあわせの場所に来たにもかかわらず、ベンチか ら俺はたち上ると、手を振りながら近付いてくるカヲルに一瞥もくれるこ となく擦れ違って、前をゆく若い女性をつけだしたのだという。 どうやらそこまでの記憶が欠落してしまっているようなのだけれど、ただぼんやりと だが誰かを追って歩いていたのは覚えている。 歩きながらいろいろなことが、脳裏にまざまざと甦ってきて煩いくら いだった。イメージの氾濫とでも表現すればいいだろうか、それはまるで眼を見 開いたまま歩きながら見る極彩色の夢のようだった。 夢なのかうつつなのかわからない状態で、夢だかうつつだかわからないもの、を見る のであるから更に訳がわからない。 というのも、以前夢でみた影像なのか、あるいは小説などを読んで自分で想像し た影像なのか、はたまた映画の記憶の断片なのか、自分が監督・編集したまった く新規の夢の影像なのか、あるいはまた、どこの誰だかわからないけれども勝手 に送りつけられ見させられているものなのか、そこらへんが実に曖昧模糊として わからないのだった。 いったい夢はどこからくるんだろう。 ま、それは杳として、わからるはずもないから、置いといて。 まあ、とにかくその影像だけれども、もう頭のなかで所狭しとひしめきあっているという 感じだ。 以前ジャズのアドリブが出来るようになりたくてジャズ喫茶に毎日通っていたと き、ある日を境にジャズのフレーズが次から次へと口をついて溢れるようにして出てきた 、ちょうどそんな感じでこんこんと湧き出る泉のように舞い降り てくる総天然色やモノクロの静止画や動画を見ながら、実はぜんぜん別なこと を考えていた。 たしかそのことはなんかの漫画で読んだのだと思うけれど、ちょっと衝撃的だっ た。 御国のために殆どまだ少年ともいえそうなうら若き兵士が戦争へと出征していく 、その前夜に未だ恋人もいない(ひらたくいえば女性経験のない)彼に母親が女 性として己の肉体を提供するという禁忌が当たり前のように行われていたという 史実を知って驚きを禁じ得なかった。 それはやはり出征とは即ち御国のために命を投げ出すということなのだから、女性を知らぬまま死にに行く我が子をはかなんでの、せめてもの親心なのだろうと思った。 戦時下はやはり平時では許されざることも許されるということなのだろうか。 そもそも、人を沢山殺した者ほど誉めたたえられ勲章を与えられるとい う、国をあげて全てが狂っている情況なのだから、禁忌など存在しないのだ。 だいいち、ヒトがヒトを殺すことこそ最大の禁忌であろうはずだからだ。 しかし、どうなのだろう。そういったヒトがヒトを殺すことを奨励している、これ 以上ない悲劇のなかで、母親と実の息子がマグワウという更なる悲劇を極めたオゾ マしいドラマが繰り広げられていたという訳だけれども、不意にとんでもない勘 違いをしているのではないか、ということに気付いた。 それは若い身空で御国のために死んでゆく少年兵が、あまりにも不憫で己の肉体 を与えたのではないのではないか、ということだ。 出征してゆく少年が長男であった場合など直系の血が絶たれてしまう。つまり、 種の保存ということだ。父親も戦争にとられ、息子も召集されるとなると、 その一家が断絶してしまうわけだからだ。 しかし、だからといって母と子のマグワイという衝撃的事実が変わるわけではないのだけれども …。 いわゆる黒人の人達の間ではmother fuckerが褒め言葉であることを知ったのは、 それから暫くしてからのことだった。
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