2002年11月27日(水)

■ こんなにも上の空

こんなにも上の空な人間を私は他に知らない。

ベンガルのことを内田春菊がそう評していて、
なんだかおもしろかったので、妻にも話して聞かせたのだった。

すると、意外なことに彼女は言った。
なに言ってんの、あたしはアナタほど上の空な人を知らないわ、と。

なんだそれは。
そんなこと、これまで一度だって言ったことなかったじゃないか。
そりゃあ、話をろくに聞きもしないで生返事を繰り返すことがぼくにはあるさ。
何度か問い返された挙句に「……あ?」としか言えないことだってままあるさ。

でもそれは、たまたまそのとき上の空という状態にあったというだけで、
ぼくが上の空な人間であることにはならないと思うのだ。
そういう状態であることと、そういう人間であることとはちがうのだ。

上の空な人間は人生そのものに対しても上の空であるから、
履歴書を書くのがまず苦手だ。
というか、苦手意識もないまま、
その都度、平気でちがうことを書いてしまう。

ぼくはたまたま上の空であるだけだから、
ときどき年齢の1の位がわからなくなる程度であって、
でたらめな住所氏名生年月日を口走ったりはしない。

次に上の空な人間は食生活についても上の空であるから、
なにを食べてもうまいでもまずいでもなく、ただ口をもぐもぐさせている。
昼になにを食べたのかなんて覚えていないので、
平気で夜も同じものを食べてしまう。

ぼくはたまたま上の空なだけだから、
前夜と同じものを注文してしまったことに気づくとがっかりするし、
平気な顔でそれを食べたりはせず、つまらなそうな顔して食べる。

さらに上の空な人間は他人に対して最も上の空であるから、
顔や名前を覚えないどころではなく、その存在自体に気づかない。

ぼくはたまたま上の空状態に陥っているだけだから、
他人の存在にはすぐ気づくし、顔も名前も誕生日もすぐ覚える。
ただ、その話にはたいして耳を傾けないというだけだ。

上の空な人間と、たまたま上の空であるぼくとはこんなにもちがう。
上の空な人間。そのような人間でぼくがあるはずがない。
なにが上の空なもんか。


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