恋文
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森は黒々と 沈む 家々も 沈む
どこかの窓に 灯がともっている
空と地上の境が 滲んで すっかり夜に なるまで
いつか見た 空のように ここでも
もう すっかり 違ってしまったのに
まだ 思いだせるのね
いつも わたしだった
あなたに遇うまえ それから あとも
いまも 少しづつ 変ってゆく
いつも わたしのまま
知らないうちに なんて ない いつのまにか なんて
知っていて 変わったんだ そう なりたかった
あなたが いたからではない 誰も いなくても
わたし
今朝 空に 飛行機雲が 網のようになって 朱く染まっている
今しも 新しい筋が延びていく
離れて行くのか 帰って行くのか
佇んでる わたし 今日 空 遠くまで青い その下で
ひんやりとした 風 わたしを つき抜ける じっと している
ここに 誰も来ない だから 待っていなくて いいのに
誰にも知られない 誰にも判らない 誰にも触れられない そんなこと たとえ あなたにだって 見せないよ
不思議じゃないでしょ? そんなこと
ここでいい 遠くまでいかない
腕をのばして くるりとまわってみる
これでいい もう この場所でいい
ここに あなたを招いてみよう こんな 小さなわたしの場所
真っ白にしてしまう なんにも考えない 先のことはわからない 昔を振り返りもしない
ぽつんとわたしだけ そこにいる
それは 諦めたときから始まるのだろう ただ それと知って 続けても それは 不毛なのだろうか
いつものようにではなく 装ってみる この髪飾りですら
誰にも そんなこと 言わせない
書いては消してしまう
これは伝えることができない あなたへの気持ち
血を流したくない と 言うかもしれない
傷つけることが 好きだとは 言わないかもしれない
ただ あなたを思う想像力がなければ 血は流れる
忘れること 忘れられること
少しづつ忘れてゆく 少しづつ忘れられてゆく 今日の一日が過ぎて行くように
あなたからは あまりにも遠すぎて 声もない 姿も見えない
でも、ここにいるよ わたし あなたが きっと知っているように
ここに座っていても仕方がないので 立ち上がってみた
空の青さに溺れてしまうよ 緑にざわめきに耳をふさごう
こんなにしても 歩かないといけないのかしら
でも もう行かないといけない
刈り取りの終った とうもろこし畑は カラスの影があるばかり
向こうには森があって 木々の間を 夕日がまっすぐやってくる
わたしは ひとり ここにいて まぶしい光を受けている
なにかしら屈託をかかえて そうして 青い空の下を歩く
こんなにも 透き通った この秋の一日に
すれ違う人たちと なにげなく挨拶をかわし
遠くの丘まで見渡せる こんなにも透明な 秋の一日に
どこに捨ててしまったらいいのだろう この小さなやっかいものは
見失ってしまう あなた
それは わたしの 一部だった
半身ですらない わたしの
もっと なにかを
わけてしまった
カケラ
きりきりと 捻ってみる
痛くなったら 戻っておいで
もともとひとつだったのに いつか 離ればなれになってしまっていた もうひとりの わたし
もう 離したくないんだよ だから もう あなたになってしまおうか
言葉がでないと いたたまれない わたしの居場所は まだ、ここじゃない
自分じゃないみたい そんなとき 声もでない わたし
だって、なにもないんだもん
わたしを、わたしにしておきたい いつ わたしは、わたしなんだろう
いつも、わたしなのではない いつも、わたしでないわけではない
わたしでありたいわたし、と わたしでないほうがいいわたし
みんな、わたし
何も考えていなくても 手は動いている
水が食器を流れ落ち 手はまた次の食器をつかんで
いえ、何を考えていたのか しばらく、心はどこかに行っていたはずなのに わたしは、じっと自分の その手を追っていた
まるで自分のではないような たしかなわたしの一部
それはいつのまにか現れて 目が覚めるとなくなっていた ただの朝のできごと
夕方からは風が吹き始める 雨の予感をはらんで
あのとき わたしは誰だったのだろう 何度でもわたしだったと感じたのに
もう風は止んで もうすぐ夢を見る
たくさんいらなかった ただ、ひとつ そのことばでよかった
だから、あなたと一緒だった
髪をいじる癖は昔からだった 指の間に梳き 指に絡ませ 時には編んでみる
自分の中に沈んでしまうときに
光は ずっと遠くからやってくる 木々と家々の間を まっすぐに
熱は眩しさにかわってしまった こんな一日の終わりに
今日、木々は真っ直ぐ立っていた 青い空の下で 風は葉をもぎ取ってゆく
薄い光の集まりのように 月は青い空の真ん中に 溶けてしまう
刈り取られてしまった ひまわり畑
わたしも 何もかも剥ぎ取られてしまったようだ
わたしには溢れている あなたたちから分けてもらったものが
何を不安に思うのだろうか こんなにも満ち溢れているのに
わたしは どうやって返したらいいのだろうか
あぁ、一緒に溢れてしまおう
あなたが独り苦しい時に わたしは ここでなにも知らないままでいる
便りが届いて やっと、あなたを知ることができる
ただ、あなたがわたしの毎日を 知っていて わたしと繋がっていてくれたこと そのことが嬉しかったし それから、安心した
わたしのなかであなたは きっと、あの時のままなんだけれど もちろん、本当は わたしと同じに、あなたも変わってゆくね
でも、今度会うときには きっとわたしたちの心の中にいるままの わたしたちだろうね
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