恋文
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霧のような雨が振る 灯りがにじんで 人々は行きかう その通りに
いまだ見知らぬ街に 紛れこんだように ひとりだった
過去を拾ったり 眺めたり
まだ そこにいたかった わたしや あなたや もちろんのこと
捨てたり 壊したり したかった そんなことも
それさえも 欲しいと思う 今
さわらないでね こないでね
ぽつりと いたいだけだから
はなしかけないでね みないでね
もう ここにいないから
少しだけ 自分であればいい
なんにもないなんて ない
わたしを抱く わたし
そうでありたくて なれなかった わたし
近づいて 遠ざかる
ぽつんと 佇んでいる わたし
なんにも のこっていない わたし
どこにも 行きつかないように なってしまいそうで
身をよじる わたしは ここには いない
息をする 胸が上下する
胸から腰へと 手をすべらして
あぁ まだ ここにいる わたし
月は 冴え冴えと白い
枝が 影絵のように伸びる
朝には 地面は凍っているだろう
石畳を歩く 音が響いている
いらないわたしを くしゃくしゃに まるめて 抛ってしまおうか
そうしたら なんにもなくなって わたしは どこに行ってしまおうか
思い出に帰ろうかしら
まだ暗い朝に 黒く沈む木々も
ようやく明けてきた 群青色の町の風景も
わたしも その一部になって
オレンジの街灯の中に 佇んでいる
あなたが見る その窓の外に 冬がきて わたしも その一部になろう
あなたが読む その物語を たどって わたしも その中にはいろう
約束の日には ふたりで一緒に いようね
しんと 風の音を 聴いている
寒い道を歩こうね 凍った落ち葉を 踏んで
黙ったままでいいから 手をつないで 歩こうね
もう こんなに暗い 夕暮れだけれど
結んだ手は 離さない
あらがうたびに こんなに気持がさわぐなら もうなにも あらがわない
それでも 気持はさわぐのに
終わらない一日はない
一日 また 一日と 過ぎて
忘れてしまって いい
無垢の 思い出は そのままにしておこう
いつか 少しづつ 知り合えた 生身の わたしたち
かつて 知らなかったことも
また いつか 思い出になるだろう
思い出は かわらないのに あなたも わたしも 同じではいられなかった
それでも お互いにさしだす 手と手を結ぶ それは いまも 同じ暖かさだ
ふっつりと 切り離されてしまったみたい
なんだか 明るい ここにいると
なんにも考えない 見るともなくみえる なんにもみない
そこの窓から見える その景色を わたしも 見てみたい
目を閉じて 見てみよう
思いだけでも そこにいるように
それまでの 日々を数える
冷たい風も 暖かい灯りに 和らぐように
その日が わたしを和らげる
これは わたしたち 語りあった歌
いま あなたが この歌を わたしに ください
手をさしのべる こともできない そこにいる あなたに 向けて ただ 書き連ねる ことばよ
わたしになって そこに とどまっていてください
海のない国の水も 海につながる
この川の終わりには やっぱり海があって
その海は あなたの国の海に つながっている
この川に 思いを乗せようね あなたにつながるように
あなたにつながる すべての記憶を たぐりよせて
わたしは ここにいると 伝えてあげよう
あのとき 手をつないで 歩いた
ことばは 結んだ手から 伝わった
こんどは ことばが あなたに差しだす 手になるよ
いつも 結んでいたんだね
離れていて わかる
いつでも つながっていたかったんだ
ふと 自分の居所が 頼りなくなる
いつか暗くなって ぼんやりと立っている
誰もかも 知らないのだった
なんにも覚えていなくて その時に わたしであったらいい
考えると わからないから なんにもない ただの わたしでいたい
また 暗闇に落ちようとしている
いつも 逃げる こもってしまう
こわいの いや だから
わたしの 匂いだけ で いられるように
まるく なる
時を経て 戻ってくるなら
それは わたしたちの ものだったんだね
そのときから 今も
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