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なにも聞こえていなかったのだろうか。 遊具は暮れてゆく空に光りながら回転し。 広場には明かりに照らされた小屋が並んでいる。 情景だけが鮮やかに残り。 音だけが記憶のなかから抜け落ちている。
まだ 暮れては いない 空のしたに
知らない 街角
赤いリボンで 結ぶ
からだを 巡るのは
どんなにも 血では ない
倒れてゆく ような
その時だけ など ないのだけれど
見つめている
街には たくさんの人たちが いるのに
とても 静かだ
わたしの 中だけに 耳をすませる
あともどり したいと ふりかえり
そこに 果てもなく
いずれ まっすぐ ゆくにも 果てしない
茜色を うすく 溶かした みたい
遠くの 丘まで ずっと
草むらに 波がわたる
木々が おおきくゆれる
ここではない どこかへ いってしまう
風の音なのか 雨の音なのか
いつか 聞いていた 記憶を よみがえらせ
もういちど 眠りのなかへと もどってゆく
見送ろう みんな いってしまったら
わたしも 去ってゆく
だれも 見送らない
そうやねぇ わたしって なんなんやろ
なんも わからんうちに なんとか なって ゆくやろ
歩道の 石の並びを たどる
ひとつおきに はずれないように
まちがったら おわっちゃうよ
すこし こわい夢だった けれど まだ 目覚めたく なかったから 夢のなか ただよって いよう
群青色の空に 下弦の月が 細くて
風も 沁みてくる ような 朝
建物と建物を繋ぐ渡り廊下は暖かい。 両側がガラスなので温室のようになっている。 足下は道路で、見下ろすとトラムが走り、車が走り、人が歩いている。 通りに並ぶ建物が見え、教会の塔が見え、遠くには山も見える。 ときに、すこし揺れたりするけれど。 背後の扉が閉まり、前に見える扉に向かって歩く。
まだ みどりの 草のうえにも 落ち葉が かさなっている
そとは みるく色の もやの中
スチームのとおる おとが 指先に つたわる
ひとりで おもっているだけで いい
ただよっている
朝から 町は ぼんやり
ふんわり 過ぎてゆく
なんにも
思わなくても いいなら
いいな
ひとり じたばた している
ものごとは なるように なってゆくのに おかしいの
でも こころが ざわざわして やっぱり
じたばた
なんにもない 一日で いい
わたしも からっぽに
なってしまったら いい
遠ざかってゆく
じっと 見送って いよう
いちばん いい 距離というものが あるのだろうが
いちばん いい とは どんな ことだろう
いちばん 近づきたくても
いちばん 遠いかも しれない
それは 遠くにゆく 船ではないのに
そのまま 川を下って 行ってしまいそうに
見送った
こわい夢に なんどでも ひきこまれる
目を あけても くらい 闇
ひとしきり 木々が さわめいていたのが いつしか 雨音になっていた
見える限り 灰色だった 空が 夜のなかに とける
途切れない ように こころに 錘をおろして さぐる あなたに たどりつく 道すじ
あなたを ずっと 知らなかったのだ
ちいいさな 痛みみたいに 知りあい
なんだか ずっと 知り合ってたみたい
まだ もっと
知ることが ある
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