恋文
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まどろみのなか いつか 時間を失って
ひょっとしたら どこにも いない わたし
手探りで どこに 辿りつくだろう
歩いてみる
音を 頼りに
自らを 頼りに
少しづつ 空が 明るくなる
街灯が ふと 消える
夜を 見送っている
風が すぎてゆく 揺れる
空が たかい 冷たい
触れる のは 落ちてくる
雪の かけら
わたしたち 知っている 限りがあること
だから 言う
いついつまでも と
隠れている わたし
ひっそりと
たぎらない ように
沈んで 沈んで
深い底に 辿りついたら
泡になろうか
今日が 終わろうとする
また 明日が 終わるときを 待っている
真っ白な屋根の下 灯りがともり 坂道を誰かが 下りてくる
道は雪のなか 木々も雪のなか
わたしは 雪の中の 影になる
ときおり 鳴るのは 風なのか
闇に とけてゆく
音も
雨音を聴きながら 眠っていたい
いつかの夜 いつかの朝に
雨の匂いを 思い出しながら 帰るだろう
わたしが踏む 足元の 音
風が やってくる 木々の さわめき
歩く 歩く
わたし ひとりの からだ
記憶を たずさえて くるから
泣いていた 夜を 思い出し
泣きたくなるよ
迷いながら 歩いていても
少し なにか 知ることが できる
不完全など あたりまえで と 言いきかせつつ
それは それ
わずかに 授かったものは 十全のもの
なにかをもたらす 風ばかりではない
行く手を阻み 剥ぎ取り 奪い去ってしまう
疾駆する 風が
伏せていた 目をあげると
曇った ガラス窓の 向こうに
さらに 街灯は滲み
ぼやけた 世界を 見つめていた
たわみ たゆみ そうして 一日が すぎる
まだ 明日を おもう
知らない道を 歩き始める
まだ 引き返せる と
うしろを 振り返る
少し 知り始めた道
向こうに みどりの丘が 見える
重なる 屋根や 屋根の間の 塔を みながら 帰る
わたしの 場所は いま ここにしか ないのだと
鏡に いる わたし
探している
わたし
知っている ことは みんな 終わった
と おもう わけはない
まだ さまよっている
いま来た みちは 残っているかしら
振り返りながら とおざかる
そこには なにもないと 知っている
それでも たどってゆく 道筋には
自分で つくりあげて いった
まぼろしも 残って いるだろうか
ぱらんぱらん と 風が なにかを 運んでくるのだろうか
風も なにを 伝えることも できないだろう
音さえも 聞こえなくなる 夜には
丘のうえ 木立は 黒く並んでいる
厚い 雲とのあいだに
空は わずかに ひかりを残して
その隙間から どこに 届かそうか
坂道の向こうは 暗がりのなか
知っている道も 見知らぬように 変えて
どうやって たどろうか
波打つ 髪を 見ている
知っている と 言うが
鏡のなか
もっと 知らない
わたしを 見たい
夢のなかに 漂っていた
目覚めは なくても よかったのに
重くなった 夢を まだ 見ていたかったけれど
目覚めることに した
さざなみが たつのは いい
さざなみは 沈んだ 小石を
おしえてくれる
暗闇のなかに 横たわって いても
朝にむかって 開いてゆく 花のように
濡れた 歩道が ひかって
暗い 窓を見ながら 歩く
いちにちの おわり
風と 雨が 窓を たたき 訪れる
雲と 夜も 朝も いっしょに
しずかな 雨とともに はじまり
あたらしく 目覚める この 一日から
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