恋文
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雨と時計の 音が 分からなくなり
いつか わたしの鼓動も 混じりあって
溶け出してゆく 夜のなかに
風の 冷たさ だけではない
光が すこしづつ ほぐしてくれる
夕方は ゆっくり 暮れる
わたしは どこまで 行こうか
霧のような 雨が すこしづつ ただよって
遠くまで 見えない
わたしは どこか 隙間に いる
こっそりと 身を 押し込んで
それは それで わたしの 体温と わたしの 香り
どこにも 出なくて いい
雨だ 雨だ 濡れて みんな
知らない わたしも
濡れている
いくつもの 夢を たどって
しっとりと 湿った
朝の からだ
草のかおりを たずさえて
木々の あいだを 風が帰ってゆく
わたし ひとつの 端っこ ひとつの 真んなか
ぶらんこの いちばん うえと したと
いったりきたり
ここに いても いいのだろうか
こんなに 明るい街角で
自分を みている わたし
いつもの 空が見える
ここにある 日常
ここ以外に ない
海は ずっと遠いのに 海の匂いがする
岩のあいだを 白い波をたてて 流れてゆく
風が 運んでくる 綿毛が ただよって
遠い海に 向かっている
麦の穂が まっすぐ 伸びている
なんだか 寂しい いちにちの 夕暮れまえ
あんまり まっすぐ 伸びているから
ひかりのほうに 伸びてゆくのね
わたしは 後ろにいる
だけど そのまま 暖かいよ
糸のように 細い根が張って
するすると のぼるように 茎が伸びて
まっすぐ 生きてゆきたい
もうすぐ 花が咲くね
わたしだって 頑なになると
ほんとうに 固いので
自分でも どうにも 折り曲げられなくなって
痛くって
現実の日常も 夢の中の日常も いっしょくたになって いるみたい
雨の音は どこから やってくるのかしら
そこに 置いてきたとは いわない
まだ つながっているなら たずさえてきたと
そのことが いとおしい
どこに ゆこうか ふり返っても
そこにも 揺れる 木漏れ日ばかり
この人が どうして って でてくるのに
どうして あなたに 逢えないのかしら
暗くして いちにちを 紛れこませて しまおう
わたしの からだも 見えなくなって
じぶんの 重さで しずんでゆく
眠っているあいだ どこに いたのだろう
目が覚めても どこに 行くのだろう
揺れるのは なんでもない
しなやかに 揺れていよう
どんな風にも
雨が 濡らしていった
みどりが しんなりする
あのときも そのときも と 思い出している
灰色の そら
鳥の影が よぎると どきり とします
すこし 陽が 翳りました
待っている間 鳥の数を 数えます
もう 何羽も 飛び去って ゆきました
地面から じんわり じんわり
霧のように たなびいていた
あれは 息吹
ことさらに と わざわざ 言うのは みずから 少し なだめているような 気もするが
ことさらに 騒ぐことも ないのだ と やはり なだめているのか
季節が 少し 後戻りする
振りかえると 木々が 揺れている もう 空が 暮れそうだ
雨かと思う 風が 木の葉を 揺らしている 音が 聞こえて くるみたい 空はいつか 灰色になって
わたしの 足跡は いらない
ちいさく つけてしまった
消せないのなら
踏んでしまおうね
なんでも ない みたいに
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