恋文
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ピアノのおとが 響いてくる
風が ひんやりと 通る
部屋は 暗くして
洩れてくる光を ぼんやり 見ている
とつぜんの 雨は 音もなく やってきて
まるで 音の洪水のように 降っている
いつか 止んでいるのか わからない
まだ 降っているのだろうか
窓をあけて 水の 匂いがする
誰も 思わなかったかも しれない
だから 知っていていい
なにも 知らないことを
知らないままに していよう
飛行機が 空を横切ってゆく 音だけがする
わずかな 光が入ってくる 部屋のなかにいる
一日は なんということもなく おわってゆく
ちぎれた雲が 沈みかけた 夕日に光って
まだ 眩しいじゃない
風もあるのね ゆっくり 動いている 雲を見ている
眩しくなくなるまで まだ 明るいうちに
夏を おとなう だろうか
まだ 寒いような いまは
遠くに 思い出すだろう
空が 青くなったら もうすぐ 行こうか
過ぎていってしまった一日は いつか忘れてしまう
まだ知らない一日も 過ぎてゆくにちがいない
きょう一日が 終わろうとしている
濁った水が 流れてゆく 川べりには 誰もいない
誰かが 大きな声で 話をしている それも 雨の中に しみこんでゆく
みんな 足早に去ってゆく 路面を トラムが 横切ってゆく
りんごも トマトも 四つに切る
ひとり いないと 六つには ならないのだ
なんだか 静かだ
いずれ こうやって 三人では なくなるのだが
まだ ずっと 三人でいると 思ってしまう
さっきまで 激しく降っていた雨が あらかた上がってしまった
傘をささずに 歩く 目の前に
突然に ばらばらと 降らす 雨の木
一日を終えて 夢に帰る
なんとも 不確かではあるけれど
そこにも わたしがいると 思えば
また 帰ろう
なんども 同じことを 考えている
しっとり 汗ばんで
目をとじなくても 暗がりのなか
時がたつのを 待っている
きつい光の ただなかに 置き去りにされたみたいに
目を ほそめて 見る風景は いつもと変らない
ただ 影がなくなってしまったみたい
夢をみていたのではない 目覚めても 同じ風景が続いていて
しばらく 時間を失っていた
時がたてば みんな いってしまう
いま つないでいたい と
手をみた
誰かしら 通り過ぎてゆく
空が うつってゆく
いま さっき わたしの脚を ひかりが あからさまにし
いつまで いようと いないと
このまま 見ていたいと おもった
思い出して
残っていない
そこにあった
忘れられない
いまもあるのに
とどかない
窓のむこうは ここではない
届くだけ 受けとって
午後のひかりが おわってゆく
思い出せない 夢のように
過去は どこに わだかまっているだろう
そのとき どんなにか はっきりと あったはずなのに
海は 遠いな
わたしが 魚になったら
この川から どうやって 海にでようか
ひかりが 影をつくる
時間が とまったみたいに しずか
とりてもないことを ぼんやり 考えている
厚く 雲を塗ってみましょう
青い空は わずかです
鳥は ちゃんと囀っています
風は すこし止んでいます
青い草の匂いがします
ひかりが どんどん うすくなって
鐘のおとが 聞こえています
まだまだ 鳥は さえずっています
肩が 寒くなってきました
もう うちのなかに 帰りましょうか
また 雷が鳴っています
日が暮れるのを 待って
鳥のさえずりが 聞こえる
花のかおりが 漂っている
風が わずかに 木の葉を揺らし
まだ まぶしい 光があふれて
すこし からだが だるいような気分
あなたが眠っている その街に 雨は 降っているでしょうか
あなたが眠っているあいだ
どんなに遠い 異国であろうと
わたしにも おなじように 雨であったり
木々が とつぜん ざわめき始める
風が 雨をつれて 渡ってくる
鳥が 木の葉のように 飛んでいる
なにも 邪魔しない
雨音は ひろがって しみこんで
部屋のなかの 物音も
おなじ
窓に流れる 雨が 隔てている
なんにも 確かではない 世界のように
濡れそぼった 灰色の 異郷
ラベンダーが ひかりの方へと まっすぐ 伸びる
むらさきの かすみになって 風に揺れる
雨は さっきまで 降っていて 突然 止んだ
だんだん 暗くなる 鳥の声を 聞きながら
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