恋文
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なにも 起こらなくていい
氷のように かたまって
春を 待っている
ブラックバードが ちょんちょん と 跳ねていく
暗い 朝なのに
気づくと もう 鳥のさえずりを 聞いている
どうしようもない 流れのなかに いるとしても
考えもすれば あがきもする
流れの果てを 見てみようか
慌しく すぎてゆくあいだ なにを 聞いていたのだろう
ふつりと 音が 途切れる そのとき
浅い眠りは そのまま 目覚めになる
変わらない 暗闇のなかに 歩みいる
ひとつのことが こわくなる
あれも これもと こわくなって
じっと うごけない
すこしづつ ひとりに 慣れる
ひとりでなくても ひとりに なることを 覚える
ずっと いっしょにいる ひとりを 思う
懐かしい 小鳥の声が 聞こえる
記憶は 帰ってゆく
それから また 始まる
プラットホームを 白い光が 照らしている
誰も いない
わたしも いなかった
そこから どこに 行けただろう
出会った間もなく 離れ始める
ふたつの 重ならない 軌道
残した声も 遠ざかる
もう光を失った 空に 雲は ただの 影になる
ぽつんと 星がひとつ
すこしづつ 濡れてゆく
雨と 寄り添って 歩く
佇んでいるあいだ 辺りは影ばかり
ぽつんと わたしがいる
あなたが いない日に 風は 大きく枝を揺する
あなたが いない日に 雨が 草をなぎ倒す
あなたが いない日に 遠くの丘は 霧のなか
あなたが いない日は 誰もいない 家のなか
しん と 蒼い色になる
雪の 森の道
思い出は 影のようだと 言ったひとがいる
その影だった わたしたちが 思い出す
たくさんの 影たち
過ぎてしまえば まぼろしのように 思える
まだ 見ない まぼろしを 思いつつ
離ればなれに 過ぎてゆく
時間 それだけが ひとつの 世界のように
すれ違うこともない ままに
また 一日
交わす言葉も 遠ざかる
気づくと どこかに 迷い込んだように
目の前の 空間を 見ている
こんなに 切っちゃうなんて
もう 背中には触れなくて
肩で 揺れている
ちょこんと 跳ねて
料理中に 切ってしまったみたいです
右手親指 二センチくらい まっすぐに
なんだ 血はでていないんだ
薄っすら 赤い 切り口が 見えて
痛くなかったのに
気づいたら 痛くなった
下ろした髪を 梳いている
朝の ほんのわずかな フレグランス
ふと 香る
高く たかく 振りあがるのが 楽しかった
いまは もう 怖くなって しまった
一日は すぐに 過ぎてゆくのに
春は きざしもない
足もとが 凍る
いくつもの 足跡を
たどり 越えて
帰って行く
始まりも 終わりも
暗くて 見えない
まるくなる
凍った道をたどり くすんだ空のした
丘は まだみどりのまま ゆるやかに つづいている
まだ たどる その先へと
一瞬のなかに いるけれど
その一瞬のなか どんなに たくさんのことが 過ぎてゆくのだろう
捉えて 留めて いる暇もない
昨日は どこに行ったのか
青い空のしたで
凍った地面を踏んで
遠い山並みを見ながら
歩いてゆくよ
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