恋文
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小さな 幸せ 小さな 不安
風の匂いがするよ
わたしを 包んでね
足踏みを している間に
どこにも 行けない
もう一歩は 長い一歩
知らない間に 日が落ちている
人通りも 広告塔の明かりも よそよそしい
風に追われて 家に帰る
窓の外は いつも どこかの世界
ひそかに 音を集める わたしの耳
街路樹の茂みから
わずかに 聞こえてくる 小鳥の囀り
みんな眠りにつく
日の傾きと 風の匂い
記憶と また出逢う
彼岸花の色
風の中に立つ
山稜は 黒い影
消えかかった 朱色の縁取り
彼岸花 立ちすくむ
倒れた 稲の波
風の寒さ
ただの一日 たった一日 わたしの一日
もうすぐ 終わるよ
小鳥たちは 眠れているだろうか
いつも 囀り かびすしい 木立
風の吼えるばかり
ここではない 場所を思う
どこでもない
いくつもの 路地を見ながら
立ち止まる
振子の刻む 時間
いつもと 変わらないこと
行き来する 光の道筋
見ている
耳はどこかの 他の 遠く
髪をあげる 湿ったうなじを なぞってゆく
風の通り道 曇のなか
遠くからの 音だけを ひろっている
なんにもない 夜の時間
ほら また 忘れてしまっていた
知らないわたしは ひとりで 歩く
食べたら 美味しいので
なにも 気にしなくて いいのよ
寄せる波 返す波
カーテンが 揺れる
夜の風
しろい まるい 月のおもてを 雲が かすめていった
いろんな 虫の声がして
虫の声に かぶさる
街の音
風ともつかない
電線の 錯綜する
群青の空 まんまるい月
昼下がりの 山の湯は やさしい
岩に トカゲが這い キリギリスが カランに乗っている
トンボも 蝶々も やってくる
アブが来たから でも、帰ろう
痛みは 沈むような 感じがする
小さな傷が
ここにいると 主張する
朝の花 まだ 眠っている おはよう
夕方の花 もう 眠っている おやすみ
見て歩く 道すがら
駆ける馬の姿の 雲が流れる
胴にひかる 夕焼けの色
髪を 束ねる
うなじに 指が 湿る
風もない
夜の道を 歩くだろう
湿った風に 滲む光
どこにでも あったような
金平糖の とげとげ
舌でなぞる
窓を打つ 雨の音を 聞きながら
せみの声
杉の木は ゆっくり揺れる
変わってゆく 空の色
とんぼが やってくる
風といっしょに 時間が 去ってゆく
声も聞こえなくなるような 雨のなか
街は白く かすんで にじむ 夜の光
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