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風が いきなり 吹きすさんだ
けれど 水の匂いがして 和らいだ
海につながる としても
海ではない
音もなく 流れてゆく
風といっしょ 急ぎ足ですぎる 街角の暗さ
日が 傾いてゆく
林のなか モザイクを 変えてゆく
午後には すでに
遠くから 冴え冴えとした ひかり
からだを 通ってゆく
無言のまま すれ違ってゆく
聴こえるのは スピーカーからの 音ばかり
いつものことが いつもでなくなる
夢ではないなら めざめない
突然の 雨にふるえる 木々は
街灯のひかりを たわめる
傘のしたに
耳がひろっている
カーテンのむこう ガラスのむこう
通りの音 はなし声
眠りにはいる前に きりはなす
信号を待つあいだ 風が通りすぎる
星のない夜空
いきなり 日は傾いてしまい
重い雲のしたで 峰がひかる
もう 今日が 終わってしまうのね
薄く切れて 指に 血が滲む
からだは 知らないうちに きずつく
電車に揺られて
もうここにいない
とろとろ とけてしまうみたい
少しだけ 離れるのがいい
ここではない 時間を過ごそう
いつも変わらない 朝の風景は 白々としている
誰かが 立ち去ったあとのように
少しとおい 海を思ってみる
波しぶきを はこんでくる
風の感触
雨 はらはら ふっている
繭になって ねむる夜
ラジオから 聞こえてくる
相撲とか 野球とか 別世界のこと
ときどき 怖くなる 事故のこと
あの子は 元気で やっているだろうか
いつか 雲がかかった空
少し 水の中
体温に 馴染んでゆく
風は 真っ直ぐ前から やってくるのだった
誰かの 明確な意志が そうしているように
そんなことなど 知りたくないので
真っ直ぐ 前に歩くのだった
ベランダの朝顔 置き去り
公園の木々 いろづく
水槽の中だって 揺らされたら びっくりする
押されるままに 動かされて
やがて いつしか 止まる
しんと 静まっている
意識のない間 密かに覚めている もうひとり
匂いを 取り込む からだのなかへ
しっとり 濡れた
誰かが 手を離した
風船が 空高く上っていった
鳩が屋根の上 見下ろしている
音の渦
普段どおり 特別なことはない
陽射しも あたたかい
何も違えなかった 日は暮れていった
真っ直ぐ帰る 舗道に映る影
辿りつかなくても 通り過ぎる
それぞれの 場所へと
茫々とした道筋
さまざまな 夢を見ていても
毎日は同じ
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