恋文
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風に乗るように 鳥は空を泳ぐ
若葉は 若芽は 落ちないかしら
軒下に もう つばめが やってきていた
知らない国の地図を描いて 雲が流れてゆく
風はずっと吹いている
花も木も少ない 街なので
花屋さんの前で 足を止める
さみしい月 ひとり 中天 雲の中
銀の鎖で 繋ぎ止めたい
今日も 星と月のかたち
黄昏の公園の隅に 辛夷のつぼみ 白々として
空には 一直線に 金星と三日月と木星
陽射しがはいってきて きもちが おだやかになる
料理鋏で 指と爪を切った
きれいに 切れるのね
血は、少しづつ出て
不思議に 大丈夫な気がする
ふと 指は 逃げるのよね
かぼちゃを 太い包丁で切るとき
指を切断するような 気がするときがある
どんなに 憧れるだろうと
ずれたり 崩れたりしながら
かたちは 定まらない
八つ当たりのように 早足で歩いている
汗の予感のような 肌の感覚が 厭わしい
2012年03月20日(火) |
まだ 遠いのかもしれない |
春を迎えつつある 町なのだろうか
くすんだ通りに わずかな木や草花や
まだ 空も灰色
扉の木目は 奇妙な顔だったり 不思議な動物だったりする
ときどき こわい
だんだん みんな隠れてしまう
向こうが見えない 街は
小さな箱庭のようになる
雨に煙った 街はいい
山も曇る
みんな 静かな 佇まい
夢ではない 夢を見ているあいだに
夢とのはざまが ゆっくりとけて
うつつを見ている
風が吹き荒れている
旗のないポールに ロープだけが カンカンと 音を立てる
記憶を 呼び起こすように
でも 今日の風のなかをゆく
午後の病院 光がよどんで 白い 目覚めるまで
山の頂上から 駆け下りた そのまま空中を滑ってゆく 朽ちかけた古城の塔が見えている
砂の上に湧き水が現れて みるみる川になった 真っ直ぐ底まで見渡せる透明な水 すっともぐって行った
海は果てしなく遠浅だった 漁師たちが帰ってくる影が黒い 少し沖まで歩いてみた
ホバリングする飛行機から降りてきた ロボットのような魔術師が わたしのマフラーに赤いリボンをつけたら 編み込みのショールになった それをもう一度触ったら 次にはニットのワンピースになった
貰って帰ったら雑貨店に女友達がいて いくつか化粧品を買ってくれた あとで教えてあげるね、って
山の上に 乗りかかるように 浮かんでいる 雲が縁が輝いて
ただ平穏に 過ぎてゆく
寝坊した朝 子供の声が聞こえている
世間は もう動いていて
わたしは まだ ちょっと まどろみたい
結局は 自分の勘と経験と
レシピを見つつも
えいやと やってしまうのがいいので
なんだか 水が多かったかな と 思ったって
できてしまえば ほら
おいしいじゃない
雨しぶきが しらじらと光る
傘が撓んで 進むのも覚束ない
ぱちん と はじけるように 傘の骨が折れた
湿った匂いが 立ち上ってくる
町の明かりは ぼんやりと
月のない空を 照らしている
風が まるくなった
曇り空だけれど
なんだか明るい
水溜りを よけても
湿った道
空は ようやく 曇り空
雨のむこうは どこか遠い
誰かが いつのまにか いなくなった
雨の音ばかり
少し自分ではないような 一日があって
ふわふわ 浮いているような
足元が きもちいい
窓の外 猫が 横切っていった
わたしは 温泉の中で 暖かい
猫は ちょっと こっちを見た
つまらなさそうに 顔をそむけて
とんとん と 行ってしまった
曇りガラスを通して 道路がぼんやり光る
黒く照らしながら 車が通り過ぎる
雪を残して 山が光っている
過ぎるだけの 日々であっても
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