恋文
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燠火のような 夕日とともに 溶ける一日
山が重なり 道は丘に続き
川が流れ 草原は茂り
そんなところに いたい
いちご色の空が ビルの間から のぞいている
小鳥が 巣に帰ってゆく
もつれた夜に からまって 眠りにおもむく
少し 傷のある手
ときに不器用で あるいは不注意で
奥底に滞ったような 痛み
木々は雨を溜めるから
ぽつり ぽつりと しずくが落ちてくる
みどり みどり
小鳥の声と 雨の音
じぶんの 息を聞いている
風が 冷たくなった
草が 揺れている
空を 仰ぎ見ると
まだ 曇っている
アガパンサスの 花の傍らを歩く
風が冷たくなる
離れるわたしを 繋ぎとめている
真ん中のわたし
夜の風のなか
消えてゆく 夕日の光
おきびのように
どろりと 沈む闇
音も鈍くなる
空が あまりに青いので 見とれていた
雲が 白くて めまいがした
ツバメが 飛び交う空
滲む汗に 風がふれる
カーテンを 膨らませる
夜のざわめき
どこか遠くで 花火のあがる 音がして
やがて 静かになる
夜の風になる
空全体が 流れてゆく
風に抗って 歩く
じっとりする
風がまとわりつく
払っても 払っても
ぐるぐる巻きになって
絞ったぞうきんのようになる
けたたましく 救急車が走っていった
毎日の不安を 連れてゆく
色あせた 紫陽花の花
ほこりっぽい 夕方の通り
熱気がこもる
暗くなる前がいい
雲が薄墨のように 流れて 山並みと重なっている
風の音を 聞いている
雨になる 直前の空
鳥が ひらひらと 飛んでいった
暗い部屋に入る
カーテンの向こうに 透けている 町の明かり
ぼやけている 雨の夜
みどりが くすんでいる
熱気の残ったままの よどんだ空気
月もない 夜の空の淀み
音も積み重なる
いつか 雨があがっている
湿った道路を 行き交う車の音がする
なめらかに 黒い夜
昨日のやけどだろうか 人差し指の根元に 赤いしみ インクをこぼしたみたい
消防車の サイレンの音が いくつも いくつも 重なる
ベランダから 赤い回転灯が どんどん過ぎてゆく
ざわざわする夜
雨は 静かに降っている
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