『室の梅 おろく医者覚え帖』 宇江佐真理 講談社 - 2003年05月31日(土) 宇江佐さん著作リストは《こちら》 奉行所検屍役・美馬正哲。身投げや殺し、首縊り…。屍の末期の無念を解き明かす彼を、ひとは「おろく医者」と呼ぶ。武器は、遠く紀州は華岡青洲に学んだ最新の医術!江戸の「法医学者」は恋女房、産婆のお杏とともに、八百八町の底に渦巻く愛憎に立ち向かう。人の生と死に触れる夫婦を描く傑作事件帖(文庫裏表紙より引用) 本当に作中で行われてる検死が行われてたのかちょっとよくわかりませんが『解体新書』の杉田玄白を登場させたりしてリアルさを増すように作ってるあたりはかなりのアイデア作品だと思います。設定上は『解体新書』が刊行された年に主人公が生まれたようになってます。 夫が人の“死”に立ち合う検死官、妻は“生”に立ち合う産婆いう対照的な設定は見事である。 内容としたら宇江佐さんの作品の中では最もミステリー色が強い作品となっている。 あと、夫婦小説としても楽しく読むことが出来る。 全4編からなるが2編目の「おろく早見帖」が1番の出来かな。 主人公の美馬正哲が麻酔手術勉強の為に紀伊の国に旅立ってるあいだに妻のお杏が代わりを勤めるシーンがいじらしくかつ微笑ましく感じられる。 お互いを思いやってるシーンが随所に散りばめられて、現代物では味わえないような心地よさがある作品といえるでしょう。 こういう2人を理想の夫婦っていうんでしょうね。 生死に関わる仕事をしてるにもかかわらず、子種に恵まれなかった二人の最後はどうなるのでしょうかね、読んでのお楽しみです(笑) 評価8点。 ... 『子盗り』 文藝春秋 海月ルイ - 2003年05月30日(金) とにかく悲しい物語である。 子どもが生めない女、子どもを奪われた女、望んでもいない子どもを妊娠してしまった女(美津子・潤子・ひとみ)が常軌を逸した行動をします。 ただ、三人の女性の心理描写は凄いの一言に尽きる。 けっして好きなジャンルの作品じゃないが、それでも一気に読ませてくれるあたりはさすがサントリーミステリー大賞受賞作だなあと感心した。 海月さんの文章は読みやすくて構成もしっかりしてます。 展開的にはとってもサスペンスフルでいいのですが、最後の結末がちょっと作りすぎててあっけないような気もしましたがどうでしょうかね。 ハッキリ言えるのは、読後感はあんまり良くない作品です。 登場人物すべて自分のことばかり考えすぎなような気もしましたが・・・ それでなければ悲劇は生まれないかな? 一番の犠牲者は哲也かもしれませんね。 でも何も知らない方が良いってことが世の中には多いのでと強く思いました。 普通に結婚して当たり前のように子供が出来てる方には是非読んでいただきたい作品かもしれませんね。 きっと自分の幸せを実感できるでしょう。 評価7点。 ... 《ジョンQ 最後の決断》 ビデオ - 2003年05月29日(木) 評価6点。(2002・米・116分) 保険金がおりずに心臓移植でしか助からない息子の為に人質をとって立てこもり病院を占拠するジョンQをデンゼルワシントンが熱演! デンゼル・ワシントンの熱演はわかるのだけど、ちょっと私の感覚では主人公に共感できず、狂気の沙汰としか受け止めることが出来ませんでした。 純粋に感動できるといったレベルの内容じゃなかったです。 もうちょっと譲歩して見るべきなんでしょうかね。 もちろん、収入が減ることによって保険も自動的に減額され、いざと言う時に本当に困った事態に陥る設定なんかは、こんな不景気な世の中だったら我々の日常生活 にも良く似た事が起こりうるということで問題提議はしてくれてますが・・・ それだけにちょっと内容が浅薄だったようにしか思えない。 子供の為だったらなんでもするという親の気持ちはわからない事もないけど・・・ 気持ちと行動は別物だから、あれで子供に伝わってると思わせること自体矛盾してるんじゃないかなあと思いました。 デンゼル・ワシントンが演じたからまだ見れたのかもしれませんね。 他の人が演じてたらと思うと・・・ちょっと辛口かなあ(笑) 典型的なアメリカ人向けの作品といえるでしょうね。 ... 『走らなあかん、夜明けまで』 大沢在昌 講談社文庫 - 2003年05月28日(水) 映画を観てるように一気に読ませてくれる作品です。 会話分が多く時代小説を続けて読んでる私にとってとっても読みやすい(笑)。 東京から出張で大阪に初めて来た主人公の坂田勇吉が、翌日の会議で必要なアタッシュケースを置き引きされたことによって巻き込まれた事件をハラハラドキドキの展開で一気に読ませてくれます。 何と言っても知らずに芽生えた真弓との愛情めいた友情がとっても良い感じです。 ちょっと大阪に関しては曲解されてる気もするが、テンポよく読めるから許容範囲内と言うことで・・・ 主人公の坂田勇吉、新宿鮫の鮫島さんみたいなカッコよくありません。 きっと平凡なサラリーマンであるがゆえに読者自身を投影して読めるのでしょうね。 読ませどころは、初めはケースを取り戻すことばかり考えていた主人公がやがてケースなんかどうでもよくなり真弓を助ける事に必死になって行く過程が読者にも伝わってくる点に尽きるでしょう。 あと藤井寺球場や野茂投手が実名で出てきます。 10年前の作品ということで少し懐かしさを感じたりしましたね。 それにしても、わずか一夜でこんなにいろんな体験を出来るサラリーマンって彼ぐらいでしょうね。 続編は舞台が札幌みたいです。たまにはハードボイルドもいいなあと思った1冊でした。 評価8点。 ... 『春秋の檻 獄医立花登手控え� 戞‘B�周平 講談社文庫 - 2003年05月27日(火) 江戸小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登。居候先の叔父の家で口うるさい叔母と驕慢な娘にこき使われている登は、島送りの船を待つ囚人からの頼みに耳を貸したことから、思わぬ危機に陥った―。起倒流柔術の妙技とあざやかな推理で、獄舎に持ちこまれるさまざまな事件を解く。著者の代表的時代連作集。 (文庫裏表紙より引用) 藤沢周平読破計画はこちら 『用心棒シリーズ』とともに藤沢さんの代表的なシリーズ物となってる本作(『檻シリーズ』)は全四巻からなる。 昨年末講談社文庫から新装版として出たので文字も大きくなって読み易い。 設定としたら、居候先の叔父が酒飲みで肩身の狭い生活をしている為に、登も同様に気分屋の叔母や不良娘おちえに扱われているところが和やかな雰囲気を醸し出している。 それにしても立花登がとってもいい。まるで藤沢さんの人柄をそのまま表したような感じを受ける。 第1巻目を読んだところでは宇江佐さんの“髪結いシリーズ”と比べたら捕物要素が強いような気がする。捕物要素7割・青春恋愛要素3割といったところかな。 ちょっと登の失敗談的な話もあって心地よい。 獄中の人間に対しても暖かいまなざしが注がれてるのが目につく。 あと、悪人と対決する際も柔術で勝負するので殺傷沙汰とならないところが爽やかに受け止められてとってもいい。 いとこのおちえとの恋模様や、おしんの将来、あるいは友人の新谷弥助との友情など・・・ 最後におちえがさらわれる章があって急展開、今後も目が離せない展開となりそうです。 評価8点。 ... 『被害者は誰?』 貫井徳郎 講談社ノベルズ - 2003年05月26日(月) 作家の吉祥院慶彦が安楽椅子名探偵振りを披露する4編からなる短編集です。 どの作品もそれなりに読ませてくれます。 最後にあっと言う仕掛けもあってたまにこんな小説読むのに気分転換になっていいかなあとは思いました。 ちょっと後輩でもあるワトスン役の桂島(こちらは警視庁勤務です)を馬鹿にするような発言が多すぎて多少なりとも不快感もありましたが、割り切って読むべきでしょうかね。 最初の表題作でもある「被害者は誰?」が1番よくあとは尻すぼみ感が拭えない嫌いもあるがそれなにりは楽しめる作品となっている。 貫井さんとしたら結構ユーモア感溢れる作品と言えるんじゃないでしょうかね。 同じように趣向を凝らした作品でもある『プリズム』よりすっきりした作品ですが、本格推理ファンの方には本作の方がありきたりかなあとも思われるかもしれませんね。 貫井さんがいろんな作品を書けるんだと世間に知らしめるのには恰好の作品かもしれませんね。 個人的にはもっと重厚な作品の方が好きなんですが・・・ 評価7点。 ... 《たそがれ清兵衛》&《リターナー》 ビデオ - 2003年05月25日(日) ☆たそがれ清兵衛 評価9点。オススメ(2002・日・129分) 各賞を総なめにした藤沢周平さん初の映画化作品です。 原作を読んだのだがかなり脚色されてる模様。原作のうち3つほどを合わせた作品みたいです。 詳細はここでは触れないが、時代劇好きな人には見所満載の作品となっている。 映像もとっても綺麗で、テレビドラマでは表現できないだろうと思えるレベルで哀愁感が漂っている。 主演の真田弘之はもちろんのこと、恋人役の宮沢りえがとっても健気でつつましく好演している。 純愛を貫く姿は心打たれること間違いなし。 一コマ一コマ丁寧さに作られている。邦画もなかなかいいじゃんと言える内容の作品です。 特に方言(庄内弁)が聞いててリアルに感じる。 山田洋次監督の手腕を発揮した語り継がれる大作と言えそうですね。 見終わってから映画館で見たらよかったと強く後悔した作品でした。 ☆リターナー 評価8点。(2002・日・116分) こちらは一転してアクション娯楽大作となっている。 金城一紀は相変わらず演技は上手くないと思うがカッコよく演じている。 もっとも岸谷五郎と比べること自体かわいそうな気もするが・・・ 内容的には『マトリックス』と『ET』をパクったような内容となっている。 しかし、邦画でここまでつくれるのはたいしたものではないかと思ったりします。 脚本も上手く練られており最後まで息をつかせぬ展開が待っている。 内容もわかりやすくて消化不良は起こさずにいい感じ。 鈴木杏ちゃんも演技派だったとは驚かされました。 意外なことに最後はちょっと切ない気分にさせられた作品であります。 ... 藤沢周平さん&藤沢作品読破計画! - 2003年05月24日(土) ★初挑戦藤沢さん 先日藤沢周平さんの『橋ものがたり』を読んだ。 氏の作品は初めて読んだが、正直言ってこんなに面白いとは思わなかった。 人生の機微を本当に無駄のない文章で綴っている。 まさしく背伸びせずに読める時代小説といえると思う。 彼の代表作のひとつに極医立花登手控えシリーズがある。 講談社文庫から昨年末新装版(文字を大きくして)で出たのだが、第1巻と第2巻に現役のトップ時代作家と言える佐藤雅美さんと宇江佐真理さんが解説を携わってる。 2人の文章をこの場を借りて引用したく思う。 まさに最大限の賞賛といって差し支えないと思う。 <佐藤さん> 世には他人には真似ることのできない、努力しても追っつかない才能がある。死に物狂いの努力をしても、イチローや松井にはなれない。タイガー・ウッズやカール・ルイスにもだ。学問の世界でもそう。上には上がいて、そのまた上に上がいる。小説というジャンルの世界はその点、曖昧模糊としていると思われがちだがけっしてそうではない。藤沢さんは巨峰のようにそそり立って眼前にあらわれ、時代小説などたやすく書けるものではないんだよとたしなめられる。 <宇江佐さん> 藤沢さんと気軽に呼び掛けるのは、いささか畏れ多い。言うまでもなく、藤沢さんは時代小説の大家として、亡くなった今も熱烈な読者の支持を得ている。 それは、作品もさることながら、作家本人の実直にして清々しく生きた姿勢が読者に好感を持たれているからだと思う。 (中略) 藤沢さんというお手本があるから、私も相変わらず台所に設えた仕事机で原稿を書いていると公言できる気がする。 ★藤沢さん読破予定作品。 かなり著作数が多いので、他のサイト等を参考にして主な作品をリストアップしました。 全部で10タイトル(20冊)あります。 読む順序はわかりませんが少しづつ読んで行こうと思ってます。 皆さんの参考になれば嬉しく思います。 ◎橋ものがたり(新潮文庫・短編)感想はこちら ◎たそがれ清兵衛(新潮文庫・連作短編) ◎蝉しぐれ(文春文庫・長編) ◎本所しぐれ町物語(新潮文庫・連作短編) ◎三屋清左衛門残日録(文春文庫・連作短編) ◎極医立花登手控えシリーズ(講談社文庫・連作短編 全4巻)『春秋の檻』感想はこちら ◎用心棒日月抄シリーズ(新潮文庫・連作短編 全4巻) ◎よろずや平四郎活人剣シリーズ(文春文庫・連作短編 上下巻) ◎隠し剣シリーズ(文春文庫・全2巻) ◎彫師伊之助捕物覚えシリーズ(新潮文庫・全3巻) みなさんが読まれた感想も是非聞かせてください。 ご一緒に藤沢作品を楽しめ語り合えたら嬉しく思います。 ... 『アンクルトムズ・ケビンの幽霊』 池永陽 角川書店 - 2003年05月23日(金) 鋳物工場に長年働く西原は工場内における不当なタイ人に対する扱いに直面しながら、自分自身の過去の初恋相手への過ちを思い出していくのであった・・・ 《bk1へ》 《Amazonへ》 ひとりの男として主人公の葛藤はよくわかります。 人種差別を題材としていて題材的にちょっと重めですが『コンビニ・ララバイ』とともに作者の代表作のひとつとして数えられる秀作であると思う。 特に『三たびの海峡』をお気に入りの方なんかにはいいと思う。 感動度では落ちるかもしれないが、現実に起こりえてる話なんで読者においては本作の方が身近に感じる事は間違いなし。 タイ人やフウコ、あるいはスーイン。外人がすべて純粋な人物として描かれているのでやはり日本人に対する警告的な意味合いも多く持ってそうな話ですね。 あと、ひとりの男の再生物語としても読ませてくれます。 男性読者はこちらの視点で読まれることが自然と多いと思われます。 社長からのタイ人に対する不法就労の入管への通報を引き伸ばしつつ自分の過去を顧みて行きます。 家庭内においても、今まで妻や息子になんとなく引け目を感じて生きてきた西原が、自分を取り戻して行きます。 彼がちょっと頼りないところが良いのですよね(笑) 全体を通して、私も主人公と同じように良心と葛藤しながら読み進めれました。 読者は誰もがきっとスーインは幸せに生きていると信じて本を閉じてることでしょう。 評価9点。オススメ ... 『おれは非情勤』 東野圭吾 集英社文庫 - 2003年05月22日(木) 数年前に学習研究社の《学習・科学》という子供向けの雑誌に掲載されたものを大幅に加筆して文庫オリジナルで出版されたものです。 前半は小学校に非常勤講師として勤める25歳の“おれ”が主人公。全6編からなります。 後半は小林という小学生を主人公としています。 どちらも読みやすいのですが正直言って物足りなかったです。 特に活字中毒者には(笑) 薄い本なんで時間的にはそんなに取られませんが・・・ 以前、“しのぶセンセシリーズ”を出版した時にあとがきでたしか『作家としての方向性からというような理由でもうこう行った感じの作品(しのぶせんせ)は出さないとおっしゃってたようですが、この作品はしのぶセンセシリーズ以下です。 もちろん、出版社やネット上での盛り上がり等で刊行に至ったとも思いますが敢えて苦言を呈したく思います。 大人向きの文庫で出して欲しくはなかったですね。 東野さんの作品を完読したい方は別として、数冊しか読まれてない方には他の作品を勧めたいなあと強く思った作品であります。 評価5点 ... 《ハイ・クライムズ》&《バイオハザード》 ビデオ - 2003年05月20日(火) ☆ハイ・クライムズ 評価8点。(2002・米・115分) 優秀な女性弁護士クレア(ジャド)は建設会社を経営する夫のトム(ガヴィーゼル)と幸せな日々を送っていた。 ある日、トムが過去の殺人容疑で逮捕される。 クレアは夫の無実を晴らすためにチャーリー(フリーマン)とともに法廷に挑むのであった・・・ なかなかの佳作である。 展開がとってもスピーディで心地よい。 アシュレー・ジャドがなんといってもいい。知的美人って言うんでしょうね。演技派モーガン・フリーマンが霞んで見えるほどですね。 愛する夫のために命がけで弁護する姿は胸を打たれます。 ラストのどんでん返し、是非味わってください。 そう言えば、夫役のジム・ガヴィーゼルは『エンジェル・アイズ』にも出てましたね。 本作の方が彼のいい持ち味が出てるように思える。 信じていた人がこんな風だったらどうなるでしょうね。人ごととは言えませんね(笑) ☆バイオハザード 評価6点。(2001・米・101分) この作品に関しては次のどちらかにあてはまる人が見るべきビデオかなあと思いました。 ★原作のゲームをする人。 ★ミラ・ジョヴォヴィッチのファンの人。 上記のどちらにもあてはまらない人は(ちなみに私はそうです)、ちょっと退屈かなあ、テンポはいいんだけどね。 お金はかなりかけててもちろん迫力あるアクションシーンもあるんだけど、映画の中に入り込めないんですね。 ミラの廻し蹴り、なかなか良かったですが、もうちょっとセクシーなシーンも期待してたのですが残念でした。 でもなんとか最後まで見れるのも彼女の凄さかもしれませんね(笑) 続編もありそうですが個人的には見る気は起こりませんでした。 ... 『深尾くれない』 宇江佐真理 新潮社 - 2003年05月19日(月) 宇江佐さんの最新作は実在の人物を題材とした長編となっていて、他の作品と一線を画する作品となっている。 1人の実在の人物を哀感を込めて描いていて、宇江佐さんにとっては新境地開拓の作品といえそうですが、ファンとしてはちょっと複雑な気分にさせられる作品と言えそうです。 この物語は歴史小説と割り切ってどう読めるかが評価のポイントとなるでしょうね。 短躯ゆえの反骨心から剣の道に邁進し、雖井蛙流を興した実在の鳥取藩士、深尾角馬。 剣の道以外に“牡丹を育てる”ことを生きがいとした角馬。彼の家の庭に咲く“深尾くれない”とってもきれいなのですが・・・ この生きがいが彼の人生を変えることとなるとは・・・ 彼は妻を斬り、二度めの妻も斬るのであった。 とにかく重苦しくかつ切ない作品である。 第1章(星斬の章)と第2章(落露の章)に分かれるが、特に第1章は重苦しい。 第1章はまるで他の人の作品を読んでいるみたいである。 ちょっと剣豪の専門用語の部分が多すぎるかなというのが正直な感想で読みづらい。 第2章に入っておてんばな娘ふきが登場、ちょっと雰囲気が変わっていつもの宇江佐さんらしくなります。 母親のかのは病死とばかり思っていたふきが徐々に過去を分かっていく過程が読ませてくれます。 角馬に関しても変化が見られます。 頑固さの象徴の意味合いの“武士の面目”から“娘を通しての潔さ”があらわれて来て、人間としての情熱を感じる部分も出て来ます。 彼を通していつの時代においても親子の絆の深さは変わらないということを教えてくれますが、現代人にとってやはり主人公の角馬、許せない部分が多いんじゃないかと思ったりしました。 読み終えてやはり二度めの妻(ふきの母親)の“かの”が可哀想な気分がいちばん強かったですね。 でも角馬にしたら、第2章は人(娘)の為に斬ったのでしょうねきっと・・・ 物語の結末的には歴史小説だと思って割り切って本を閉じましたが、とっても力強い小説である事を付け加えておきたく思います。 宇江佐さんには江戸を舞台とした作品を書いて欲しい。 それほど彼女には江戸がピッタシだ。 宇江佐さん著作リストは《こちら》 評価8点 ... 『橋ものがたり』 藤沢周平 新潮文庫 - 2003年05月17日(土) 時代小説の大御所、藤沢周平さん。初挑戦しました。 橋にまつわる10編からなる短編集ですが、とっても切ない恋愛模様が描かれてます。 当時の橋は今みたいに鉄道がなかったので人々にとって重要な役割をはたしていたのが覗えます。現代の駅みたいな役割を果たしてる感じですね。 とにかく出会いや別れを情感溢れるタッチで紡いでおります。 どの話も本当に良く出来ており苦しみ悩みつつも情熱を持って生きている姿が胸を打つ。 そんなに展開的に無理はないし、時代物であるだけにあざとさも感じられない。 特にセリフが自然体で受け入れやすかったですね。 読み終えて、生きて行く上で大切なのは結果より過程であるということを教えてくれてるように思えました。 橋の向こうは違った生活が営まれてる点が作品全体を支えてるような気がして、思わずそれぞれの橋を東京に行って散策したい衝動に駆られますよ。 多作な作家さんなので1冊だけでは判断できないと思いますが、文体的にはしっとりしていて乙川さんよりは読みやすそうです。 早く読みすぎてもったいなかったかなあ。また再読しますね(笑) 特に良かった短編・・・「約束」「思い違い」「赤い夕日」 ただし10編ともハズレなしです。 無性に人がいとおしくなる1冊です。 評価9点 オススメ! ... 『幽恋舟』 諸田玲子 新潮社 - 2003年05月16日(金) 諸田さんの4作目の挑戦となる本作は時代物のサスペンス作品である。 諸田さん著作リストは《こちら》 作者の幅の広い作風を一気に知らしめた作品と言えそうで、山本周五郎賞にもノミネートされました。 テーマはズバリ、“身分・年令を超えた愛!”47才の旗本兵五郎と17才の女たけに恋をします。 読ませどころは2人の恋の行方と謎の女たけの正体。 謎を深くする為にノスタルジックな描写もあって引き込まれました。 妻を亡くし、娘も片付いて人生に少し退屈しかけていた兵五郎がある日仕事中(舟番所にて)謎の美少女たけを救う事から彼の人生が変わります。 不思議な生い立ちのたけ御家騒動に巻き込まれ命がけで助け出そうとして行く所が見所なんだけど、確かにたけを守る事によって若返ってますね(笑) 彼のたけに対する心の葛藤を表すシーンは胸に刻み込まれました。 今で言えば中年だろうけど当時の47才は“人生50年”なので老年に近いんでしょうね。 ミステリーとしても結構、あっと言わせられる結末が待ってますので読んでて楽しいですね。 序章の設定も初めは誰のことかなあと思いますが、あとになってわかるのでこれも上手く生かされている。 平凡に生きてた主人公、人生の転機ってこんな風に訪れるのだなあと感心した作品でもあります。 ミステリー・サスペンス好きにも読んで欲しいです。 そうそう、剣豪シーンもなかなか素敵でしたよ。 評価8点 ... 『ストロボ』 真保裕一 新潮文庫 - 2003年05月15日(木) 久々に真保さんの作品を読みました。文庫新刊です。5編からなる連作短編集となっている。 どの短編も引き締まった内容でグイグイ引きつけられる。 ある程度の地位と名声を極めたカメラマン、喜多川の過去を振り返るエピソードが上手く綴られている。特に「一瞬」は秀逸。 通常とは違った年代を遡る事によって(50歳から22歳まで)インパクトを強めている。 具体的な出来事(例えば長嶋茂雄の引退やサッチャー首相の当選など)を上手く散りばめて時代の流れを実感する事が出来、しみじみと読める作品といえると思う。 妻を愛するという最終的なモチーフも感じ取れますが、少し男の身勝手さが表に出過ぎかなあと思ったりもするのですが・・・ 妻の喜美子さん、しあわせなのかなあ?と思うことしきり。 でも、誰しも男だったらいろんな点で似た体験があると感じて読めるでしょうね。特に情熱的に生きている主人公はうらやましく感じる部分が多々あるのだけど・・・ タイトルのとおりあたかも写真を見るようにその時々の情景を描写した短編集だといえそうですね。 この作品の良否は徐々に若いときの情熱を想い出そうとしている主人公を熱く感じ取って読むことが出来るかどうかがポイントとなってると思う。 読者の年代によって違った捉え方となりそうな感じ。 横山秀夫さんの主人公の方が誠実に生きていると思いますが(笑)・・・ でもこの作品の主人公の方が人間らしいかな? 読み進めて行くにつれ(若返る)悩みながらもハツラツと生きて行ってる主人公には少し残念な気持ちがしました(苦笑) そこが真保さんの狙いなんでしょうね。 評価8点。 ... 《チェンジング・レーン》&《イナフ》 ビデオ - 2003年05月12日(月) ☆チェンジング・レーン 評価9点。(2002・米・98分) タイトル通り、車線変更ミスによって事件が起こります。弁護士のベン・アフレックと、子供の親権を得るため、裁判所へ行く途中のサミュエル・L・ジャクソン。車線変更を無理矢理して、お互いの車が接触し、20分処理に時間がかかっただけで、お互いの人生が狂ってしまう。 事故の時に法廷に提出すべきファイルを落としたのがきっかけに、それを取り戻す為にだんだんエスカレートして行って目が離せません。 この作品っていい意味でビデオ向きだと思う。大画面で見ても決して迫力のあるアクションシーンが満載ってわけでもないし・・・ ラストがとっても感動的かつ印象的な作品となりました。かなり脚本のしっかりした作品だと思います。 でも、いつも出来るだけ冷静にありたいものですね。いい教訓となりました。 ☆イナフ 評価6点。(2002・米・115分) こちらは結構ファンのジェニファーロペス主演のDV(ドメスティック・バイオレンス)をテーマにした作品です。幸せな結婚生活から一転、変貌した夫の暴力から娘を連れて逃げまわります。 追いつめられるシーンなど結構サスペンスフルなんですが、ロペスのアクションシーンがファンとはいえいただけないというか迫力不足です。 あと、夫の暴力シーンがひどすぎて現実感が乏しいような気がしました。 ここまで相手を支配しようと言う夫っていないよなあと思いつつ見たため興味が半減した事は事実。 冒頭のシーンは音楽を上手く使っていていい感じだったのですが・・・ ちょっと尻すぼみな内容の映画といえそうです。 最近見た『エンジェル・アイズ』の方がまだ良かったですね。 でも他の女優が主演だったらきっとレンタルしてなかったと思うので、そこが彼女の魅力なんでしょう(笑) ... 『あやめ横丁の人々』 講談社 宇江佐真理 - 2003年05月11日(日) 幕府書院番頭の三男の紀藤慎之介は、祝言の日に花嫁の恋人が花嫁をさらっていった事に立腹して相手の男を切り殺してしまい、花嫁も自害してしまう。 御家断絶となった相手方の敵討ちを逃れる為に、“あやめ横丁”に匿ってもらうのだがここの人はなんだかわけありの人が多いような気がするのであった・・・ 《Amazonへ》 10編からなるがそれぞれの編の題名にまつわる話の作り方が秀逸。 それぞれの登場人物があやめ横丁に来たいきさつが徐々にわかる展開となっている。 このエピソード自体がとっても泣かせる話となっている。 あと、終盤の敵方の仇討ちのシーンもいつ来るのかドキドキして読ませてくれます。 それにしても、今も昔もいろんな人がいるんだなあと痛感出来ますね。 構成的には、約10年経った最終章がより一層物語を引き締めてるような気がした。 とにかく慎之助を含め登場人物の成長がうかがえる。 いちばんの読ませどころは慎之介と伊呂波との恋の行方ですが、これは読んでのお楽しみと言うことにして(笑)、やはり武士の慎之介が町人と生活をともにして行くことによって苦しみ悲しみを分かち合って行くところが微笑ましく感じられる点でしょうね。 特に子供たちのセリフがとっても生き生き感じる。 慎之介自身のキャラも少し世間知らず的な設定にしているところがとってもいい。 個人的には恩義を忘れて生きてはいけないということをいちばん学び取りました。 宇江佐さんの作品の中ではいちばんバラエティーに富んだ内容となっていて、宇江佐さんの魅力がいちばん盛り込まれた1冊といえると思う。 号泣するような作品でもないが、読んだあとジーンと来るとってもまとまった作品です。 日頃の疲れを癒してくれ、江戸時代にタイムスリップしたような気分になれますよ。 宇江佐さん著作リストは《こちら》 評価10点。超オススメ! ... 『コールドゲーム』 荻原浩 講談社 - 2003年05月10日(土) 高校野球球児の光也が県予選に敗退して迎えた夏休み、中学時代のクラスメートが次々と何者かに襲われる。当時、いじめの対象だった廣吉こと“トロ吉”の復讐のようで、ついに死者まで出る。光也と悪友らが必死に探した廣吉は…。 テーマはいじめでとっても重苦しい。しかし、適度にユーモアをまじえてる点が荻原さんらしいのだが、それをどう受け止めるかによって評価が分かれてくるのでしょうね。 意外とミステリーの要素が高かったのは最後まで読まれたらわかるはずです。 社会派ミステリーというジャンルになるんでしょうかね。ちょっとホラー的要素もありますね。確かにトロ吉の正体がわかるまで結構ハラハラドキドキしましたよ。 どちらかといえば、大人が読むより読書離れしている高校生ぐらいの年代の人に読んでいただきたい作品だと強く思いました。身に覚えのある人が読んだら眠れなくなるかも・・・ でもちょっと結末が悲しすぎるかなあとは思いますね。 本当に起こり得そうだから余計にやるせない気が強く残りました。 荻原さんとしたら異色作かなあとは思いますが、個人的には『神様からひと言』の方が好きだなあ。 こう言ったジャンルは他の人に任せておいたらっと思われるファンの方も多いと思いますが・・・ちょっとシリアスすぎるかな? なお本作は山本周五郎賞にノミネートされています。 登場人物のキャラの設定の上手さは十分に発揮されてますが・・・ 著作リストは《こちら》 評価7点 ... 山本周五郎賞直前予想! - 2003年05月09日(金) 応援している宇江佐真理さんが山本周五郎賞にノミネートされました。 山本周五郎賞は比較的新しい賞ですが、今や直木賞に次ぐステータスの賞として認知されてるといっていいでしょう。 個人的な見解では年1回の選考と受賞作家の傾向からして直木賞より先見の明があると思ってはばかりません。 直木賞とダブル受賞された有名作家の具定例を示すと 宮部みゆき(直木賞平成10年、山本賞平成5年) 篠田節子(直木賞平成9年、山本賞平成9年) 重松清(直木賞平成12年、山本賞平成11年) 乙川優三郎(直木賞平成14年、山本賞平成13年) いずれも山本賞を先に受賞されてます。(篠田さんは同年ですが選考は山本賞の方が早い) さらに昨年吉田修一さんが初の芥川賞とのダブル受賞をされて話題となりました。 作品の傾向としたら、直木賞よりやや純文学よりというか例をあげれば昨年奥田英朗さんが直木賞にノミネートされた『イン・ザ・プール』的な作品は山本賞にはあてはまらないような気がします。 現に、今年ノミネートされてる荻原浩さんの『コールドゲーム』は一般的には評価の高い同時期に出版された『神様からひと言』よりシリアスな内容となっています。 現状における問題点を書きますと(山本賞だけにとどまりません) ★ノミネート作品選考は主催社の編集者が決めていて選考委員が携わってない。 ★選考委員自体もそれぞれ得意のジャンルがあるので公正に評価出来ていない。 大体上記のような感じだと思います。 今年のノミネート作一覧はこちら そこで宇江佐真理さん、初めてノミネートされましたがかなりチャンスが高いと思っています。 直木賞に5回落ちていますのでなんとか山本賞をゲットしてひとりでも多くの方に読んでいただけるようになれば1ファンとしてとっても嬉しく思います。 個人的予想。 ◎宇江佐真理 ○佐藤多佳子 ★横山秀夫 2名受賞の場合は佐藤さんが必ず選ばれるような気がしますがどうでしょうか? 横山さんの直木賞決別宣言等、いろんな問題もあると思いますが、応援してる作家さんが受賞してもらえたらと思う気持ちはファンとして当然のような気がします。 ... 『超・殺人事件』(再読) 東野圭吾 新潮社 - 2003年05月08日(木) 『名探偵の掟』路線のユーモア溢れるのパロディ的作品だが、天下一大五郎は出てきません(笑) 全8編からなりますが、特に「超長編小説殺人事件」と「超読書機械殺人事件」は面白い。 前者は本当に分厚くなっていってる傾向の高い昨今の小説を上手く風刺している。 水増しして書き足して行くシーンがとっても滑稽です。 後者は書評家のみなさんの大変さ(趣味で読むのとは違うんだなあ)もわかります。 ショヒョックスの評価モードの違いって笑えて来ますよね。 ある意味で推理作家の大変さがわかる一冊ともいえそうです。 どういう風に捉えるかによって評価が違ってくる作品だと思いますが、あんまりいろんなことを考えずに息抜きに気軽に楽しむべき本だと言えそうですね。 何作かに1作、本作のような作品を書いて読者に飽きさせないようにしてるという意図が見えますし、ほぼこういったパターンの作品に対してはジャンルを確立できたかなあとも思います。 ただ東野さんでしかこんな作品は書けないなあとはわかりつつも、シリアスな作品を優先して書いて欲しいとも思います。 あえて苦言を呈すれば、出版不況をテーマとしてるので、せめて新書版か文庫書下ろしで出して欲しいような内容かなあとファンのひとりとしては思いました。 評価8点。 ... 『おちゃっぴい 江戸前浮世気質』(再読) 宇江佐真理 徳間文庫 - 2003年05月07日(水) 文庫化記念に再読しました。 宇江佐さん著作リストは《こちら》 市井の人々の日常を暖かい視線で描いてます。 宇江佐さんは我々に親子や夫婦のみならず周囲の人々との繋がり大切さを教えてくれます。 6編からなる連作短編集ですが連作と言っても2編×2の4編とあと2編は独立した短編となっている。 表題作はおてんば娘お吉ことおちゃっぴいが縁談を拒み逃避して活躍します。 副タイトルの江戸前浮世気質から見てもわかるようにいちばんこの短編集の特徴をあらわした作品となっている。おきゃんな“おちゃっぴい”が活躍するところは声援を送らずにいられません。 それ以外は大工・岡引・薬師問屋が活躍しますが、私は薬師問屋の菊五郎が特に好きで、いつまでも過去の恋愛を引きずっている登場人物がある意味微笑ましく感じました。 本作は宇江佐さんの作品の中で最も庶民的で江戸っぽい作品かなあと思います。 それだけにそれぞれの主人公が啖呵を切るシーンがとってもみものとなってます。 どれもが泣いて笑えるハートウォーミングストーリーですが、『深川恋物語』のようなしっとりとした雰囲気はないような気がします。 切なさよりも笑いに重点を置いた人情時代小説と言えそうです。 文庫版のあとがきにもありますが、作者自ら“若書き”という言葉を使っています。 その後の宇江佐さんの成長振りを確かめる上でも初期のこの作品是非お読みください。 ただ、読後の余韻等は最近の作品に比べて落ちるかなあとは思いました。 評価7点。 ... 《サイン》&《ピンポン》 ビデオ - 2003年05月06日(火) ☆サイン 評価7点。(2002・米・107分) 妻を不慮の事故により亡くし信仰を無くしてしまった元牧師のグラハム(メル・ギブソン)は、弟(ホアキン・フェニックス)と2人の子供たちと農業を営みながらひっそりと暮らしていた。そんなある日、彼の農場に突如ミステリーサークルが出現する・・・ この映画は『シックス・センス』などと比べて衝撃的なものが欠けてるような気がする。 それなりには楽しめますが、ちょっと期待はずれでした。 というのも、少し結末がありきたりすぎなような気がする。途中はハラハラ出来たんだけど 娘役の女の子はとってもチャーミングだったけど・・・ ☆ピンポン 評価7点。(2002・日・114分) こちらの方はペコこと窪塚洋介の爽やかなカッコよさが全開です。 彼のファンかどうかで作品に対する印象度は違ってくるでしょう。 でも、一般的にあんまり脚光を浴びてないスポーツでも彼がやればさまになる点は見逃せません。 スマイルとの友情という観点から見ても面白いかもしれませんね。 撮影面でも上手くCGIを使っていて十分に楽しめます。 キャスト的にもかなりの豪華なメンバーらしいです。(私は窪塚以外知りませんでしたが・・・) ... 『FINE DAYS』 本多孝好 祥伝社 - 2003年05月05日(月) 4編からなる比較的長めの短編小説集です。帯に恋愛小説と書いてあるが読者が一般的に持っているイメージの恋愛小説じゃない。まるで大人のおとぎ話だ。 《bk1へ》 《Amazonへ》 どれもが『生と死』をテーマとしているが、非常に美しい文章の為に重々しさはなくあっという間に読めます。 どの短編がいいかは読まれる方によって違ってくると思いますが、私は表題作以外の2編目以降の作品は皆同じぐらい良かったです。 構成もしっかり出来ており特に「シェード」の老婆の話なんかは女性向けする作品かなあと思います。 「イエスタデイズ」は逆に男性受けかなと思います。 女性からしたらお父さんがちょっと身勝手に感じるかもしれませんね。 金城一紀さんの『対話篇』に似たテイストの作品ですが、本作の方が癒してくれました。 本多さんの作品って、日頃われわれが日常生活において直面していることからちょっと外してくれて心地よく入って行けますよね。 苦しいことを忘れ、心地よい気分に浸れるという点においては、まるで子供が遊園地に行って楽しんでるような感じかな。 どの主人公も視点が読者と同じ位置あたりなのが強く共感を呼ぶ一番の要因だと思う。 この作家こそ本多ワールドという言葉があてはまる作家かもしれませんね。 この人しか書けないという世界の文章だと思う。 評価9点。オススメ ... 『覘き小平次』 京極夏彦 中央公論新社 - 2003年05月04日(日) とっても読ませてくれる作品である。 江戸時代の怪談をベースとしている怪談話だが全然怖くもない。 小説を読んでるというより芝居を見てるような感覚で読める。 章ごとに主役が替わっていき、読者に飽きさせない構成をとっている。 いったい小平次とは何者であったのだろうか? 復讐劇となってるが誰もが悪役って感じでは取り上げられてない。 小平次の周囲の登場人物が読み進めて行くうちにリンクされて行きます。 それにしてもみなさん波乱万丈の人生です(笑) ある意味、小平次がいちばん個性のないキャラかもしれないと思う。 ポイントは小平次の存在感が薄いと感じるか否かが評価を左右すると思う。 従来の京極さんのファンの方には『巷間百物語』に出てる登場人物が出てるみたいでより一層楽しめるでしょう。 それと元ネタを知ってる人がいたらもっと面白いでしょうね。 ラストのあたりは少しせつない気持ちにもさせてくれます。 生きてるか生きてないかわからない小平次から、生きることの尊さを学び取った気がするのだが・・・ 評価8点 ... 『深川黄表紙掛取り帖』 山本一力 講談社 - 2003年05月03日(土) 元禄時代に江戸に住む若い男女4人の痛快な小説です。 それぞれが表稼業を持っているが(リーダー格の蔵秀は定斎売り・辰次郎は絵草子作家・宗佑は飾り行灯師・雅乃は絵師師作家)皆で一致団結して江戸の厄介事、よろずを引き受けている。 人と人との駆け引きや謎解き要素が上手く散りばめられていて一気に読ませてくれます。 特に雅乃が見合いするあたりから一気にヒートアップ。渡世人の猪之吉の言動がとっても影響力が多くて物語を盛り上げてます。 あと、実在の紀伊国屋文左衛門や柳沢吉保が登場、物語をより一層リアルなものにしているが2人とも好人物として描かれている点には驚かされるでしょう。 ただ、登場人物それぞれの個性があんまり発揮されてなかったような気がする。 具体的に言えば、もう少し蔵秀と雅乃の恋愛模様を書いていただけたらもっと面白かったように思う。あと通貨などの単位が当時の単位なんで少しわずらわしかったです。 この小説に時代小説特有の“人情”を求めたら少し拍子抜けするかもしれませんが、とっても爽やかな作品です。続編がありそうな気もします。 いつの時代でも協力することと工夫することの大切さを教えてくれた作品です。同時にいつの時代でもこんな人っているよなあと思い知らされた作品でもあります。 『生きる』(乙川さん)と『斬られ権佐』(宇江佐さん)のあとに読んだので少し評価は低くなりましたが上記2作は素晴らしすぎるということで・・・ 文体は乙川さんより読みやすいような気がします。 次は直木賞受賞作の『あかね空』を読みたいですね。 評価7点 ... 『斬られ権佐』(再読) 宇江佐真理 集英社 - 2003年05月02日(金) 昨年度の私の年間ベスト2の作品です。感想未アップのため再読しました。 宇江佐さん著作リストは《こちら》 主人公は、ほれた女医者の危機を助けるために生きているのが不思議なほどの傷を全身に負った権佐。彼は仕立屋であるが与力の小者としても働く。 宇江佐さんの看板作である髪結いシリーズとは違ったテイストの作品である。 捕物帖要素もほとんどなく物語としても重くて暗い印象は否めない。 物語りも読者の予想通りの展開となっていきます。 あたかも読者がそれを希望してるかのごとく・・・ しかし作者の訴えたい事は明確に伝わってくる。 女性からしたらこういう風に愛されたい。男性からしたらこんな女を愛したい。 女性が読めば幸福感を、男性が読めば男の心意気を強く感じるでしょうね。 いつ終わってしまうかもしれないけど、幸せをお互いにいたわり合い信頼しあって生きている姿がせつない。残りわずかだとわかっていても一生懸命生きる姿が胸を打つ。 現代物だったらあざといと思えるようなセリフや行動でも、時代物だから許容して読め読者に熱く訴えてくれるんでしょうね、きっと。 権佐が自分の命より大事だったもの・・・じっくり味わって読んでください。 最終章は本当に涙物です。 妻のあさみ、本当に強い女です。そばに蘭ちゃんがいるから彼女もずっとしあわせなんでしょうね。権佐が蘭にあさみのことをまかせたのだから・・ 評価9点。オススメ ... 『生きる』 乙川優三郎 文藝春秋 - 2003年05月01日(木) ご存知第回直木賞受賞作で3編からなる中編集です。 著作リストは《こちら》 乙川さんの作品を読めばこれが世の中なんだ!ということを読者に教えてくれる。 完成された情感溢れる文章は彼独自のもので後世にも名を残すだろう。 人の人生のやるせなさというかはかなさを切実に訴えている。 乙川さんの作品の主人公は概ね不器用だ。でも最後は潔い。 決断に迫られて悩みぬく姿は我々の心を強く打つ。 文章自体は宇江佐さんや諸田さんの方がずっと読みやすい。 しかし、独特の哀愁感漂う作品のテイストは読者をも思慮深くしてくれる。 どちらかといえば市井ものというより武家ものを得意としてる作家だと思う。 束縛された中で模索して生きている登場人物は、きっと我々自由に生きてる現代人が忘れてた何かを思い起こさせてくれる。 なんと甘っちょろく生きてるのかなあと反省した。 3編とも皆が“必死に生きてます。” 「生きる」では殉死できなくて忠義を果たせなかったという男が・・・ 「安穏河原」では自分の生活の為に娘を女郎に売った男が・・・ 「早梅記」では下女であるがゆえに妻としなかった女に対して後悔している男が・・・ 他の作品と比べて、より重い感じがする。しかし、物事を真摯に受け止めるということを勉強した気がする。 評価8点。 ...
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