朝からバアさんが来る。この人ったら昨日、あれだけ電話で言っておいたのに、やはり自転車でパソコンを運ぶつもりだったらしい。まぁ、意固地な人だから…。それなら実物見れば納得するだろうと思って、箱に入ってパソコン2つと、パソコンデスクを見せる。これならそうだ! でも、実物を見ても「このくらいなら自転車でなんとかならないかねぇ」と言っている。ケチなのか、バカなのか、ボケてんのか。
別に会話はなかったが「(妹は)昼にならないと戻らないから絶対に昼過ぎに来るように」と、キツク言われる。そんなの電話で事足りるだろうに、何を考えているのか分からない。こうして顔を出したのも、朝から来てもらっては困ることが実家であるのだろう。まぁ、いつものごとく長男には知らせない秘密事なわけだ。この家は互いに隠し事が多すぎ。(妹が俺の白血病のことを知らなかったというのも案外、本当なのかも知れない。ジイさんが首の骨を折ったのも「誰にも言うな」と言われてるし…おかしいって)
昼飯を食い、玄関先にパソコンを運ぶ。なんか部屋の中の移動だけで疲れてしまった。こんなんで階段を下りることが出来るのだろうか? タクシーの運転手なんか手伝うわけがないし。心配だ。
呼吸を整えてタクシーを拾いに出る。いつも信号待ちをしていると、目につくタクシーであるが、いざ利用しようと思うと目の前を走らないものである。羽田に向かう車線にいるから駄目なのかと、車線を変更したら反対側に空車が通るし…。やっとの思いでつかまえた運ちゃんは、去年、沖縄で出会ったバスの運転手みたいな奴だった。なんで客に対して威圧しなきゃいかんのだ? 道にガキが多いと思ったら今日から夏休みだった。車の近くを子供が通る度に運ちゃんは、低くつぶやく。「チッ」「邪魔なんだよ」…嫌な運転手だなぁ。
大森のマンションに到着し、入り口に荷物を降ろす(勿論、ヤクザな運転手は手伝わない)。誰も盗らないとは思うが、心配なので自分で部屋まで運ぶことにする。が、エレベータから部屋までは、マンションの端と端。そういえばここへ引越しする時も大変だったよなぁと思い出す。
まずパソコンの箱を一つ、入り口まで運んで妹を呼び出す。手伝ってもらうつもりだったが、入り口から部屋の中に荷物を入れただけで出てこない。…全部、俺がやるのかよ。
部屋に入ると開口一番、バアさんが「こんな重いの、よくもまぁ持ってきたもんだ」と。あんたは、それを自転車で運ぶつもりだったのよ。なんか暗い視線を感じると思ったら、丸イスに座ったジイさんだった。息子が目の前にいるのに一言もなしで、パソコンの箱を睨みながら散歩に出て行った。(若い看護婦いっぱいで)パラダイスのようなリハビリ施設から実家に戻ってきて、途端に性格が曲がったという報告を受けたが、これは暗い。ま、性格曲がってるのは前からなんだけどね。
パソコンの接続までシッカリやって、両親がリハビリの散歩から戻る前に帰ることにする。顔をあわせと難癖をつけてくるだろうから。こっちには、ジイさんのケンカ相手をするほど気持ちに余裕はないもんで。ちなみに、ここまでしてやったのに妹からは一つも感謝の言葉がなかった。何の労力使ったわけでなし、金を使ったわけでなし、いつの間にか部屋にパソコンがあるわけだ。ここまでくると無口とかいう問題ではない。やはり変だな、この家族は。
ただ、自分なりに仕事をした、という感じで妙に爽快感があった。やはり体を動かすと気分も違うのだ。…早く仕事をしたい。
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