2003年03月25日(火) |
朝はココアから始まる |
朝の光がカーテンの隙間から顔を出し部屋の一部分を射している。 テーブルの上にあるカップに入ったミネラルウォーターを照らして、光の波が踊っている。朝の訪れを待ちわびたかのように。 緩やかな朝の訪れと心地よい疲労感を背中に感じながらベッドから起き上がる。眠っている彼女を起こさないようにゆっくりと。夢の中にいる彼女の邪魔をしないように。 寝息を立てて静かに眠る彼女に『おはよう』代わりのキスをした。起こさないように。でも少し起きないかな?という期待も持ちつつ。静かにキスをした。おはようにはピッタリのキスを。 部屋には投げ捨てられた衣服たちがそこら中に散らばっている。少し昨晩の出来事を思い出させてくれる。久しぶりというコトだけでこんなにも二人が盛り上がれるものかと・・・まだ若い自分を嬉しく思いつつ。二人の衣服の中から僕の下着を見つけおもむろに履いた。 キッチンまでゆっくりとできるだけ足音は立てないように、彼女を起こさないように。それから煙草に火を点けた。目を瞑って煙を吐き出した。全身にニコチンが行き渡るのを感じて、その後全身の二酸化炭素を吐き出した。 朝の光は徐々にカップからベッドへと移っていた。彼女の顔を目掛け光は動いている様にも見える。まるでスナイパーがスコープを持って狙うように。ゆっくりと照準を合わして彼女の顔に押し寄せる。彼女は光を嫌がって寝返りをうつ。スナイパーは溜息をついた。そしてスコープから目を放しその場を去っていった。 煙草の火を消して、ユニットバスへ向かった。ぬるいではなく熱いシャワーを浴びるために。熱いシャワーから始まる一日は大好きだ。一日の始まりは熱いシャワーがイイ。それから白いシャツを着て出かける日は最高に機嫌がイイ。 昨日の出来事、熱い体、皮膚の感触、二人の躰のしなやかさ。重なる二人を思いだして、体を洗っていく、くまなく。汗なのか精液なのか分からない人間らしい臭いを洗いきる。リセットする。熱いシャワーは体の感覚を忘れさせてくれる程。0に戻してくれた。朝は熱いシャワーから始まる。 バスタオルを首に下げリビングに戻ると彼女はカーテンを全開にして窓の前で立っていた、下着だけを着て。光を浴びていた。その後ろ姿があまりにも綺麗で後ろから抱きしめたくなるほどに。太陽から放たれる全ての光を全身で吸収して息をしているようだ。あれほど嫌がっていた光を今は喜んで受け入れている。 『何をボォーと見てるの?』 振り返った彼女の躰、笑顔、その存在が完璧だった。あまりに完璧すぎて言葉さえ失ってしまった。この世に存在しているモノ全てから愛されてもおかしくない彼女・・・。僕は世界中から嫉妬されるのだろう。少し微笑んだ。 『何か飲むかい?』と慌てて聞いた。あまり、調子に乗っているといつ彼女に突っ込まれるか分からない。だから答えが分かっている質問をした。 『ココアちょーだい!』 いつもの調子で。 いつもの彼女で。 いつもの朝に。 部屋には春の匂いがくすぐっていた。二人とも不思議と笑顔になれた。 麗らかな風がカーテンを揺らしている。外へと誘うように。
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