![]() |
![]() |
![]() |
|
![]() |
![]() |
![]() |
ラクリマ 2001年11月16日(金) | 昨日の続きになるが、昔の話をもう少し。 そんな訳で、20歳の誕生日は殆ど外へ出ず、彼の事を好きでいる事を止めなければならないという事実に、目を泣き腫らして過ごしてしまった。 12月に入ってすぐ、私は一緒にドイツ語を学んでいた友達数人と、京都の彼の住まいにお邪魔する事を決めた。彼はドイツ語教師だったので、みんな気ごころの知れた仲間達だった。(年齢は面白いくらいバラバラだったが・・・。)彼が電話で言っていた「会ってほしい人」は、やはり、というか当然というか「彼の恋人」だった。 思っていた、どんなタイプとも違う人で、正直びっくりした。彼は修行中の板前さんで、さわやかな風が吹くような青年だった。切れ長の目、骨張った細い腕、ハードロック好きらしい、鋲の打ってある革のコート。すべて私にないものを彼は全て持っていて、溜息が漏れた。 その「恋人」は初対面から「ヒロ」と呼ばせてくれた。 前に住んでいた人の仏壇や古い和だんすなどが並んでいる旧家のリビングで、鍋をしたり、MTVのニルヴァーナのカート・コパーンのインタビューを見たりして、皆で寛いだ。おじやを作ろうと、一人で台所に立った私を追ってヒロが手伝ってくれた。 「あ、まだ米の研ぎかたが素人やな。」なんて笑いながら、一緒に残り物の野菜を刻んだり、おじやの玄人のコツを伝授してくれたりした。まるで私を妹みたいに、まるで自分がお兄ちゃんみたいに、接してくれている気がした。そして、ゆっくり「彼」との出会いについて静かに語ってくれた。私なら、同じ人を好きになってしまった相手にこんなに優しくできるだろうか。私なんか敵ではないにしても、こんなにすべてを分かった顔で、許した声で、一緒に料理したり、ふたりの出会いを打ち明けたりできるだろうか。そう思ったら、ココロの底からヒロには叶わないと思った。ヒロの事を大好きになってしまった。 その頃、私がつけていたのは「la\\'cryma(ラクリマ)」という香水。甘くて、優しい香り。好きだった人も「wunderbar!」(素晴らしい!)と誉めてくれた香り。仕事上、香水をつけられないヒロも「いい匂い」って羨ましそうに、私の事をくんくんした香り。 その香りの残った壜はいまだに捨てられず、引き出しにしまってあり、幽かに残り香がする。とても切ない、彼と彼の恋人の思い出の香りだ。 |