度々旅
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台風が去り、素敵に晴れた。風も乾いた風なので気持ちが良い。夕方アパートのドアを開けて座り込み、靴みがき。靴墨の匂いが、結構好きなことに気付いた。実家の玄関は、自転車もおける位のスペースがある。母はいつも、玄関にたくさんの革靴を並べて、磨いていた。その時、玄関は靴墨の匂いが充満するのだが、それが妙にしっとりした、落ち着いた匂いとして私の中に印象づけられている。
靴磨きという職業にあこがれがある。小さな頃から、なんとなくかっこいいと思っていた。昔から道端にいる靴磨きのおじさんたちが、味わい深いというか、絵として美しく見えていた。墨で汚れた手、たくさんの道具が入っている木箱、おじさんたちが座っている椅子、お客が足を置く台。全てが、こじんまりと、しかしながら厚みがあるというのだろうか、木が生えているように、どっしり自然と存在しているように見えるのだ。そして、下から客を見上げて話をする。きっと、靴一つでお客の人生を見通しているのだろうと思った。 今だにそのあこがれは変わらない。友達になった道端の靴磨きのおじさんは、素敵な人だった。季節の移り変わりに敏感であったし、人の靴を通して社会を見ているようでもあった。 ものの見方にはいろいろあって、一つの方法だけではない。何事においても、じっくりと観察を続け考察をつづければ、対象は姿をはっきりと現してくる。靴磨きという仕事から見えてくる社会と、学者が考察する社会。直接に見えてくるものは違うだろうが、考察を重ねることによって見えてくる社会の先の姿は同じものだと思う。
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