先月、実家の母がコウジ味噌5KGを航空便で送ってくれた。 幼馴染のお母さんが作っている本格的なお味噌で、今が一番おいしく熟成しているから、私たちにも是非食べさせてやってくれ、ということらしい。 郵便局の不在受取票があり、そこに読み取りにくいポーランド語のメッセージが添えてあった。とにかく訳わからぬまま郵便局に取りに行った。 ようは、容器が破損して、中身が少しもれてしまった、ということだった。 いざ、自宅の台所で開けようとしたら、なにやらえらく頑丈に梱包されているようだった。外側から、クラフト紙、ダンボール箱、ビニール(空港のスーツケースをぐるぐる巻きにするサービスみたいな感じで)にさらにビニール。タッパを直接巻いてあったビニールには、お味噌の一番おいしい上澄み液が滲み出て、ひたひたびしょびしょになっていた。はぁ、そうだったのか・・・。
「あー、おばちゃんが作る懐かしいお味噌のいいにおい・・・」 とラップに鼻を近づけてくんくん匂いをかいで、しばらくノスタルジックな思いに浸っていたけど、ある時、体中の感覚がふと切り替わったのか、思考回路が瞬時にヨーロッパ的になった。大げさに言えば、順調に流れていた血液が瞬時に逆流するような感覚であった。
「うわ、くっさー。ポーランド人には、このニオイ、絶対我慢できないわー」 ヨーロッパでこの日本的な発酵のにおいはかなり異質であろう。 それにこの発酵臭は、一旦手についたら、いつまでもどこまでも離れてくれないカオリだぞー。 このマンションもオフィスと大家さんの住居があるから、我が家から発する日本食のにおいには極力気をつけているのだ。 実際にこれを担当したポーランド人もさぞかしびっくりしたことだろう。 容器を破損させたから、郵便局側で梱包しなおそうとしたんだと思うけど、異常な臭いを放つこれを開けて見て、またびっくりしただろうな。 臭いこそは違うにしろ、あの色といい、やわらかさといい、ま、ま、まるで、う、うんこじゃない・・・。しかも5KG相当。麹はうじ虫に見えるかもしれない。 もし、担当が私であったなら、びっくりしてこっそり涙を浮かべたにちがいない。
そしてまた、妙な嗅覚の記憶。 この湿気を含んだすえたようなニオイ、どこかでかいだ覚えがある。それも、ドイツの家にいたとき。 そうそう、日本から引越し専門業者に船便で荷物を送ってもらったときの、ダンボールに染み込んでいたのとおんなじニオイ。
きっと日本から世界各国に向けて送る荷物の中で、お味噌とか醤油、酒や何かが、移動の途中で破損するか、もしくは船で赤道直下を通過するときに、コンテナー内で破裂し、それらのニオイが充満した、ということが、今までにあったのかもしれない。そういうことが何度か起こるうちに、コンテナーにはきっと、日本特有の調味料とナフタリンやその他もろもろが混ざった臭いが染みついてしまったのだろう。 なにしろ南回りで蒸し風呂状態だから、自分の荷物が破損しなくても、コンテナーのその臭いだけはしっかり移る。
確かに、あのお味噌のにおいは、船便で届くダンボールから漂う独特の臭いにも含まれていた。
なんだか、妙なことで懐かしい・・・と思ってしまった。臭いんだけどね。
PS 夕食時のお味噌汁は、おかわりをしたくらいおいしかったよ。炊きたてご飯とお漬物でも十分なご馳走でした。 実家の母にも、幼馴染のおばちゃんにも感謝・・・。
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