Spilt Pieces
2002年06月13日(木)  見捨て行為
猫の足。
宙を向いてピクリピクリと動いていた。
交通事故。


生か死か、まだ分からない。
よく見る道路上の動物の死体と違って、腸は出ていない。
倒れている。
死なずにすむかもしれない、小さな命が一つ。
猫は動けない。


細い道、朝のラッシュ。
車は飛ばしている。
通りすがりの一瞬、私は対向車線上の「死体ではない猫」を、見送っていた。
軽トラックが猫を踏みそうになりながら、辛うじて跨いで通っていった。
その瞬間、運転中にも関わらず目を閉じてしまった。
ほっとして、私は大学へと急いだ。


偽善者。


目を閉じた私は、偽善者。
多くの言い訳を思いついてしまう私は偽善者。
通ったときに見た軽トラックが轢かなかったから何だというのだろう。
後に誰かが轢くかも分からないのに。
誰が轢かなくても、あのままでは猫は死んでしまうのに。
車がすいた時間に通った誰かが助けてくれるとでも思っているのか。
猫やタヌキの死体に痛そうな表情を浮かべて、何もせず通り過ぎていく大人が大嫌いだった。
今の私は…?


目の前に見える世界さえ平和ならいいと、多くの見なくてはならないことに目を瞑って私は笑おうとしている。
死体があっても、次の日にそれが消えているとほっとする。
死んだ事実に変わりはないのに。
誰かが埋めてくれたというだけなのに。
私がしたことは?


猫はきっと死んでしまった。
自己弁護したいわけではないが、私のような人間が世の中には多いと思うから。
今朝、その猫を轢いた人も含め、猫を見た人の数だけ見捨て行為があったのではないか。
今日という日に、世界中でいくつの見捨て行為があったのだろう。


他の多くの国より豊かな国に住んでいて、口では他国を労るような発言をして、選ぶっている人というのはどれほどの数か。
していることは本当は、「何もしない」という見捨て行為なのに。


猫に、今思うことを尋ねてみる。
答えは…?
「痛い」?絶望?
それとも既に、無、か?
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